シネコラム

第558回 月給泥棒

飯島一次の『映画に溺れて』

第558回 月給泥棒

平成二年十二月(1990)
池袋 文芸坐

 

 宝田明主演の『月給泥棒』は東宝の典型的なサラリーマンサクセスストーリーであり、『ニッポン無責任時代』より公開は半年ほど後になるが、ほぼ同様のコメディである。監督は私の大好きな喜劇の名手、岡本喜八
 カメラ会社の若い社員吉本は、持ち前の調子の良さと図々しさで、人事部長の息子の裏口入学を世話し、課長補佐に就任する。一挙に功を焦った彼はアラブの富豪で貿易商のホセ・ダゴンがライバル会社にカメラを買いに来たのを知り、銀座のクラブのホステスで金の亡者の和子とともに近づく。が、吉本と和子との間に恋が芽生えたため、和子に気のあるホセを怒らせてしまう。
 結局、和子はホセのプロポーズを受けて、豪勢な暮らしの待つアラブへ嫁いで行くと吉本に告げる。吉本は和子を追うのかと思えば、そうでもなく、結局契約は成立せず、とうとう会社をクビになる。
 ところが、この映画のドライなところが、次の最終場面である。吉本はライバル会社の重役室にどかっと腰掛けている。和子から受け取ったホセとの契約書を持ってライバル会社に寝返ったのだ。そこへ和子も帰って来る。一夫多妻のホセには妻が三人もいて空港から追い返されたのだという。ライバル会社の重役として出世した吉本は和子と結ばれ、めでたしである。
 宝田明植木等ほどにはあっけらかんとしていないが、ずっと芸達者で、その分陰険でいやらしい男の魅力にはリアリティがある。これは宝田版『ニッポン無責任時代』なのだ。
 ホステス和子に司葉子、ホセ・ダゴンジェリー伊藤、他に東宝系の喜劇人が何人も出ている。

月給泥棒
1962
監督:岡本喜八
出演:宝田明司葉子、十朱久雄、中丸忠雄宮口精二、浜村純、二瓶正也、砂塚秀夫、横山通乃若林映子原知佐子、森今日子、堺左千夫ジェリー伊藤塩沢とき、沢村いき雄、本間文子

 

←飯島一次の『映画に溺れて』へもどる

 

PHP Code Snippets Powered By : XYZScripts.com