シネコラム

第552回 異動辞令は音楽隊!

飯島一次の『映画に溺れて』

第552回 異動辞令は音楽隊!

令和四年八月(2022)
立川 TOHOシネマズ立川立飛

 

 阿部寛主演の異色刑事ものである。地方都市で独り暮らしの老人を狙った悪質で残忍な連続強盗事件が発生する。役場から老人に向けて犯罪防止の電話がかかる。家庭内に大金や貴重品がある場合は危険なので、きちんと保管しているかどうかとの問い合わせなのだ。
 それに答えた直後、老人宅に宅配便を装った強盗団が侵入し、老人に重傷を負わせて金品を奪う。つまり役場からの電話は犯罪組織からの偽電話だった。
 事件解決のなかなか進まない警察内部で、捜査一課の成瀬刑事は現場経験が豊富であり、犯人グループとの接触の疑いある若者の住居に侵入し、これを強引に締め上げて、犯行を白状させようとする。規則にとらわれない成瀬のはみ出しぶりは、まるでクリント・イーストウッドの暴力刑事ダーティハリーを思わせる。
 令状も取らずチームワークを無視する成瀬に対して署内からも不満の声があがり、日頃の反抗的な態度に怒りを覚えた県警本部長の五十嵐は、成瀬を呼び出し、捜査一課を解任し、異動を命じる。
 その異動先が驚いたことに山の教会を拠点とした警察音楽隊なのだ。少年時代、村祭りで太鼓を叩いていた成瀬は、音楽隊のドラムを担当することになる。音楽隊ブラスバンドのメンバーは犯罪現場とは無縁の交通巡査やパトロール警官たちで、捜査一課から離れた成瀬は落ち込む。
 高校生である成瀬の娘は仕事一筋で家庭を顧みない父を憎んでいたが、高校の学園祭では音楽グループに属しており、警察音楽隊に異動した父に少し興味を持つ。
 成瀬は演奏会などで隊員たちと心を開き、だんだんと音楽が好きになるが、町では連続強盗事件は終わらず、音楽隊のファンの上品な老婦人が強盗団に襲われ、命を落とす。怒り狂った成瀬は、果たして音楽隊員でありながら、強盗団を追い詰めることができるのか。
 強盗団の被害に遭う老婦人がかつて昼メロのヒロインだった長内美那子である。成瀬の母が倍賞美津子、五十嵐本部長が光石研、音楽隊の先輩が渋川清彦と脇にはベテランが揃う。

 

異動辞令は音楽隊!
2022
監督:内田英治
出演:阿部寛清野菜名磯村勇斗高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、見上愛、岡部たかし、渋川清彦、酒向芳、六平直政光石研倍賞美津子、長内美那子

 

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