第547回 遊びの時間は終らない
平成四年四月(1992)
池袋 文芸坐
本木雅弘はかつてシブがき隊に属するアイドルだったが、その後ベテラン俳優として『おくりびと』などで風格ある演技を見せるようになった。
私が最初に観た本木の映画が『遊びの時間は終らない』であり、当時二十代半ばで堂々たる主演俳優であった。
最初の場面、若い男が銀行強盗の計画を綿密に練っている。彼は交番勤務の警官だとわかる。つまり、現役警察官によるシリアスな犯罪映画であろうか。そう思わせて、実は違うのだ。
地方都市の警察署が地元の銀行を舞台に本格的な防犯訓練を行なうのだが、その犯人役に指名されたのが本木ふんする若い平田巡査なのだ。真面目な好青年ながら、少々融通のきかないタイプである。訓練は型通りの段取りではなく、打ち合わせなしで、実際の事件と同じように対処し、警察の力を市民に誇示しようというものである。
リアルなぶっつけ本番で、地元のTV局が生中継する。銀行員はすべて本物の行員で、客は警察官が演じる。そこへ平田巡査ふんする強盗が乗り込んで、これをエリートの警部補が取り押さえるという場面が想定されている。
ところが用意周到な犯人像を作り上げた平田巡査は、客を装って逮捕に来た警部補をあっけなく射殺する。つまり隙を見て銃を向け、口で「バン」と言うのだ。警部補は役割通り、首から死体と書かれたプラカードを下げ、その場に横たわる。銀行員と客は「拘束」のプラカードをさげ隅に集められ、銀行における強盗の立てこもり事件へと発展するのだ。
思わぬなりゆきにTV局は大喜びで、実況を続ける。いきりたった警察側は、威信をかけて強盗に対処するが、融通のきかない強盗役の平田巡査は手強く、事件はどんどんエスカレートする。さて、この防犯訓練、どういう結末を迎えるのだろう。犯人役の平田巡査は警官隊の包囲網を無事に突破できるのか。
遊びの時間は終らない
1991
監督:萩庭貞明
出演:本木雅弘、石橋蓮司、西川忠志、伊藤真美、原田大二郎、萩原流行、斎藤晴彦
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