シネコラム

第543回 或る夜の出来事

飯島一次の『映画に溺れて』

第543回 或る夜の出来事

昭和五十六年十一月(1981)
新宿 新宿ビレッジ2

 

 私が一番大好きなクリスマス映画といえば、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』である。キャプラ監督はコメディの名匠として一九二〇年代から六〇年代まで数多くの恋愛喜劇や人情喜劇を発表し続けた。
 大恐慌禁酒法の時代、バロウズギャングのボニーとクライドが警官隊に射殺されたのが一九三四年五月、その三か月前の二月にキャプラ監督の『或る夜の出来事』がアメリカで公開され、同じ年の昭和九年八月には日本でも封切られた。
 主演はクラーク・ゲイブルとクローデット・コルベールで、ゲイブルは戦前の日本でも人気があったのだ。
 大富豪の令嬢エリーはプレイボーイとの結婚を父親のアンドリュースに反対され、ヨットに閉じ込められる。腹を立てたエリーは父に反発し、海に飛び込み失踪する。
 マイアミの海岸に流れついたエリーは所持金はほとんどなく、ニューヨーク行きの深夜バスに乗る。
 バスの指定席でエリーとトラブルを起こして喧嘩となるのが、新聞記者のピーターだった。ピーターは高慢なエリーに腹を立てるが、彼女が失踪した大富豪の娘と知り、新聞記者の身分を隠して、彼女を取材し、記事にして売り込もうとする。
 大雨でバスがストップし、ピーターとエリーはバスを降りて、近くのモーテルへ仕方なく宿泊することになる。お互い所持金が少ないので、夫婦を装って同じ一室に泊まり、ただし、部屋を毛布で仕切っていっしょに寝ないようにし、毛布を聖書のジェリコの壁と呼ぶ。
 その後、ふたりの間に恋が芽生えるが、果たしてジェリコの壁は角笛で崩れるのであろうか。
 新聞記者が失踪中の著名女性と出会って記者と名乗らず内緒で取材しようとするが、恋に落ちてスクープを諦める設定はその後、『ローマの休日』に活かされている。

 

或る夜の出来事/It Happened One Night
1934 アメリカ/公開1934
監督:フランク・キャプラ
出演:クラーク・ゲーブルクローデット・コルベール、ウォルター・コノリー、ロスコー・カーンズ、ジェムソン・トーマス、チャールズ・C・ウィルソン

 

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