シネコラム

第528回 アメリカの夜

第528回 アメリカの夜

昭和四十九年十二月(1974)
大阪 北新地 梅田東映ホール

 

 フランス版の『キャメラを止めるな!』を見ていて、連想したのがフランソワ・トリュフォー監督の『アメリカの夜』である。特殊レンズを使って昼間に夜の場面を撮影する手法のことをアメリカの夜というらしい。
 最初の場面は町の広場。人々が行き来し、自動車やバスが通る。地下鉄の出口からひとりの若者が現れて町を歩く。反対側から初老の男がやってくる。ふたりは立ち止まり、向き合う。いきなり若者が相手の頬を叩く。
「カット」の声で、動きはストップ。町と思われたのは撮影所のセット、建物は表側だけで裏は張りぼて、歩く人々はエキストラ。見事な出だしである。これは映画の様々な撮影現場を描いた映画なのだ。トリュフォー監督自身が監督フェランを演じる。
 撮影中の映画のタイトルは「パメラ」、主人公パメラ役のジュリーがハリウッドからニースのスタジオにやってくる。若い夫を演じるのは神経質なアルフォンス。母を演じるのがイタリアの名女優セブリーヌ。父を演じるのがハリウッドでも鳴らしたアレクサンドル。内容は初老の父親が息子の妻パメラと愛し合う不倫物語である。
 日数と予算は限られ、フェラン監督は次々と浮上する難題に対処しながら、撮影を進める。
 ジュリーは精神的な病気を克服したばかりの病み上がり。セブリーヌは年齢を気にして、酒を飲みすぎ、何度も段取りを間違える。アルフォンスはスクリプターのリリアーヌと恋仲だが、浮気症の彼女に振り回され、いらいらしている。さらに大きなトラブルがあり、それでもカメラは止められない。
 映画はこうして作られるというトリュフォー自身の内幕ものでもある。
 ジュリーを演じるジャクリーン・ビセットをはじめ、ヴァレンティナ・コルテーゼ、ジャン=ピエール・オーモン、ジャン=ピエール・レオ。スターがスターを演じ、名優が名優を演じ、監督が監督を演じる。これ以上のリアリティはないだろう。

アメリカの夜/La Nuit américaine
1973 フランス/公開1974
監督:フランソワ・トリュフォー
出演:ジャクリーン・ビセット、ヴァレンティナ・コルテーゼ、ジャン=ピエール・オーモン、ジャン=ピエール・レオ、アレクサンドラ・スチュワルト、フランソワ・トリュフォー、ジャン・シャンピオン、ナタリー・バイ、ダニ、ベルナール・メネズ

 

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