シネコラム

第523回 シャーロック・ホームズ シークレット・ウェポン

飯島一次の『映画に溺れて』

第523回 シャーロック・ホームズ シークレット・ウェポン

平成二十七年十一月(2015)
曳舟 すみだ生涯学習センター

 

 ベイジル・ラスボーンといえば、シャーロック・ホームズである。
 南アフリカ生まれの英国人で、ロンドンで俳優修業、アメリカに渡ってブロードウェイに出演した後、トーキー初期の映画で活躍、一九三九年に20世紀フォックスの『バスカヴィル家の犬』と『シャーロック・ホームズの冒険』でホームズを演じ、一九四二年から四六年にかけてユニバーサルで十二本のホームズ映画に主演した。細面の鋭い容貌はまさにホームズそのものである。
 フォックスの二本のうち、『バスカヴィル家の犬』はコナン・ドイルの原作を脚色。『シャーロック・ホームズの冒険』は映画独自のストーリーで、ホームズが悪の天才モリアーティと対決する。いずれも十九世紀末のヴィクトリア朝が舞台である。
 それに対してユニバーサルの十二本は一九四〇年代が背景になっており、ナチスドイツとの戦争にホームズとワトスンが駆り出されたりもする。
 残念なことにラスボーンのホームズ映画は日米開戦の影響で、わが国では封切られず、戦後も劇場未公開のままだった。今世紀に入って、私が映画館で観ることができたのは、渋谷のシネマヴェーラでの三作、また墨田区生涯学習センターでの十六ミリフィルム上映会で二作、全十四作のうち都合五作を鑑賞できたのは僥倖である。
 一九四二年の『シークレット・ウェポン』はまさにドイツとの大戦の最中に作られた一種プロパガンダ映画で、スイスの科学者が発明した高性能の照準器をめぐり、ホームズがドイツスパイを出し抜くが、ドイツ側に金で雇われたモリアーティ教授に科学者を拉致され、その行方を探るというもの。コナン・ドイル原作とはあまり関連はないが、失踪する直前に科学者がホームズに書き残した手紙が踊る人形の暗号文になっている。

 

シャーロック・ホームズ シークレット・ウェポン/Sherlock Holmes and the Secret Weapon
1942 アメリカ/未公開
監督:ロイ・ウィリアム・ニール
出演:ベイジル・ラスボーン、ナイジェル・ブルース、ライオネル・アトウィル、カーレン・ヴァーン、ウィリアム・ポスト・ジュニア、デニス・ホーイ

 

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