シネコラム

第511回 アダプテーション

第511回 アダプテーション

平成十六年一月(2004)
飯田橋  ギンレイホール

 

 スパイク・ジョーンズ監督『マルコビッチの穴』で脚本家として一躍注目されたチャーリー・カウフマンだが、撮影現場では影が薄く、ヒロイン役のキャサリン・キーナーにも無視され、関係者とみなされずスタッフにスタジオから追い出される始末。
 そんな彼に美人プロデューサーから脚本の依頼がくる。題材は『蘭につかれた男』というニューヨーカー誌の記者が書いたノンフィクション。劣等感と自意識過剰で汗びっしょりになりながら、カウフマンはプロデューサーに伝える。僕の作品にはセックスも銃撃もカーチェイスも苦難を乗り越えて成長する主人公も出しません。
 が、ほとんど起伏のないノンフィクションが原作では執筆は全然進まず、気晴らしにデートしても相手の女性にキスさえできず、机に向かって知り合いの女性たちを思い浮かべながらマスターベーションに耽るだけ。
 チャーリーの双子の弟ドナルド・カウフマンは兄とは正反対の軽薄で調子のいい男。なにをやっても長続きせず、兄に刺激されシナリオ講座に通って『3』という犯罪ものを執筆する。なんと犯人と人質と刑事が三重人格の同一人物というとんでもない脚本。それがチャーリーの代理人に受けて、高く売れそう。ますます腐るチャーリー。
 悩んでいても脚本は進まない。そこで『蘭につかれた男』の原作者ニューヨーカー誌記者のスーザンに接近しようとする。彼女は取材を通じて出会った蘭コレクターのラロシュと不倫の仲となっていた。
 ドナルドとともにスーザンを追跡したチャーリーは本に書かれていない事実、スーザンとラロシュのベッドシーンを目撃、銃を持ったふたりに追われ、カーチェイスの末、ドナルドが撃たれて死亡。そしてようやく完成したのがこの映画である。という嘘と本当を混ぜ合わせたメタフィクション。クレジットの最後にもっともらしく「ドナルド・カウフマンを偲んで」と追悼の言葉が出る。ニコラス・ケイジがひとり二役で実在のチャーリー・カウフマンと架空のドナルドを楽し気に演じている。

 

アダプテーション/Adaptation.
2002 アメリカ/公開2003
監督:スパイク・ジョーンズ
出演:ニコラス・ケイジメリル・ストリープクリス・クーパーティルダ・スウィントンブライアン・コックス、マギー・ジレンホール、カーラ・シーモア