シネコラム

第505回 フロム・ヘル

第505回 フロム・ヘル

平成十四年二月(2002)
日比谷 シャンテシネ2

 

 一八八八年、ロンドンで実際に起こった猟奇犯罪、連続娼婦惨殺事件。被害者は腹部を切り裂かれ、内臓が露出するというおぞましいものだった。犯人は切り裂きジャックと呼ばれたが、正体は今も不明のままなのだ。
 なにゆえ犯人が不明なのか、という視点で描かれているのがジョニー・デップ主演の『フロム・ヘル』である。
 娼婦街ホワイトチャペルで残忍な手口の殺人が発生し、霊視能力を持つアバーライン警部が事件を担当する。
 娼婦のアンが育ちのいい若者と結婚し、仲間から祝福されて苦界から抜け出す。その若者こそが、ヴィクトリア女王の孫、クラレンス公アルバート・ヴィクター王子だった。
 女王はフリーメイソンの医師ガル博士に隠蔽を依頼し、ガルはアンを精神病院に隔離し、脳手術で廃人にする。
 アンの相手がどうやらやんごとなき王子らしいと気づいた娼婦仲間がこれを金蔓にしようとして、ひとりひとり惨殺される。
 アバーラインは猟奇犯罪の裏にある陰謀を突き止め、ガルを追い詰めるが、辞職に追い込まれ、切り裂きジャック事件は未解決となる。
  以前、映画館で公開されずVHSビデオのみ販売だった『黒馬車の影』は、霊能者による真相の霊視、アルバート王子と娼婦との関係、王室関係者による犯罪。ほぼ『フロム・ヘル』と同じ内容だった。ただし、事件に取り組むのはクリストファー・プラマー演じる名探偵シャーロック・ホームズ。一八八八年はホームズが活躍した時代であり、切り裂きジャックと対決してもおかしくないのだ。
『黒馬車の影』はその後DVDにはなっているが、劇場未公開のまま。残念である。

 

フロム・ヘル/From Hell
2001 アメリカ/公開2002
監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
出演:ジョニー・デップヘザー・グラハムイアン・ホルムジェイソン・フレミングロビー・コルトレーン、スーザン・リンチ、イアン・リチャードソン