シネコラム

第485回 ヒトラーの贋札

第485回 ヒトラーの贋札

平成二十年六月(2008)
高田馬場 早稲田松竹

 

 第二次大戦中のナチス・ドイツの犯罪は様々な映画で描かれており、とりわけユダヤ人に対する大虐殺はドキュメンタリー『夜と霧』をはじめ、スピルバーグの『シンドラーのリスト』やポランスキーの『戦場のピアニスト』など多くの名作を生み、悲劇を後世に伝えている。
 戦争末期、ドイツが連合国側に経済的打撃を与えるため、大量のポンド紙幣、ドル紙幣を偽造していたという事実。『ヒトラーの贋札』は実話がもとになっている。
 贋札作りで逮捕されたサリーは、ユダヤ人であったので強制収容所へ送られる。そこで絵の才能を発揮して、看守の似顔絵を描いたり、看板を描いたりして生き延びていたが、ある日、別の収容所へ移される。
 集められたのは画家、写真家、印刷技師、銀行家、その道のプロであるユダヤ人たち。
 彼等が命じられたのは本物そっくりのポンド紙幣を作ること。そこは収容所内の贋札工場だった。
 サリーは贋札作りの腕を買われ、最終チェックの責任者となる。衣服が与えられ、充分な食事と柔らかいベッドのある宿舎。
 やがてポンド紙幣は成功し、ドイツスパイの手でイギリス国内に持ち込まれる。次はドル作り。本物そっくりの大量のドルをドイツ軍が握れば、戦況はドイツに有利となる。
 ドルを作らなければ処刑。作ればドイツが勝利し、世界は大ドイツ帝国支配下に。贋札工場のユダヤ人技術者たちのジレンマ。
 この映画は当時印刷工であったアドルフ・ブルガーの著書をもとにしており、ブルガーは映画公開時に九十歳で存命、二〇一六年に九十九歳で亡くなった。
 ブルガーを演じたアウグスト・ディールは『イングロリアス・バスターズ』のナチ将校、『復讐者たち』の収容所から生還者など、他のナチス映画にも出演。

 

ヒトラーの贋札/Die Fälscher
2006 ドイツ・オーストリア/公開2008
監督:ステファン・ルツォヴィッキー
出演:カール・マルコヴィクス、アウグスト・ディール、デーヴィト・シュトリーゾフ

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