第484回 ソハの地下水道
平成二十四年八月(2012)
京橋 テアトル試写室
第二次大戦中、ナチスドイツ占領下のポーランド。ユダヤ人たちはゲットーと呼ばれる居住区に閉じ込められ、外へは出られない。いずれ収容所へ送られ虐殺される運命なのだ。一部のユダヤ人たちがゲットーの地下に穴を掘り、下水道に逃れる計画を立てる。
下水の検査係をしているソハは相棒とふたりコソ泥を副業に、盗品を勝手知ったる地下に隠している。ゲットーから下水道へ逃げ出したユダヤ人と小悪党のソハが出会う。ソハは、彼らを見逃す代わりに、金を要求する。地下を知りぬいたソハが安全な場所へ案内し、食糧調達も引き受ける。通報はいつでもできる。今はユダヤ人から搾れるだけ金を取ってやろうという魂胆で。
結婚をひかえた若い相棒は危険なまねに加担できないと去っていく。
急に羽振りのよくなったソハ。夫が昇進して給料が増えたとだまされていた妻はソハがユダヤ人か金をもらって助けていたとわかり、顔色を変え夫を非難する。ユダヤ人を匿ったりしたら家族もろとも極刑は免れない。それでも、やがて妻は言う。
ユダヤ人の迫害は間違ってる。キリストもユダヤ人だったんですもの。
地下のユダヤ人たちの間でも確執があったり、仲間を裏切る者が出たり、金持ち一家もだんだんと手持ちの資金が乏しくなったり。ソハは、何度も手を引こうとするが、彼らを助けるうちに、いつしか、利害を捨てて親身になっていく。そして、最後には命がけで下水道のユダヤ人たちを守ろうとする。
粗野で下品なコソ泥。この男の中に人間愛が芽生えたとき、彼はだれよりも気高く、立派な人物に見える。
実話に基づいたストーリーで、実在のソハは戦後、ソ連兵の運転する暴走自動車から子供を助けようとし、轢かれて亡くなったとのことである。
ソハの地下水道/W ciemności
2011 ドイツ・ポーランド/公開2012
監督:アグニェシュカ・ホランド
出演:ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ、ベンノ・フユルマン、アグニェシュカ・グロホフスカ、マリア・シュラーダー、ヘルパート・クナウプ、キンガ・プライス