シネコラム

第466回 マルコヴィッチの穴

第466回 マルコヴィッチの穴

平成十二年十月(2000)
伊勢佐木町 横浜オスカー

 

 これぞ奇想天外という言葉がぴったりと当てはまる作品である。
 なにしろ、実在のスター俳優、ジョン・マルコヴィッチの頭の中に入るトンネルが偶然に見つかり、マルコヴィッチには内緒で、広告募集した客から金を取って十五分間だけマルコヴィッチ体験ができるという商売を始める話なのだ。
 才能ある人形師のクレイグは精巧な自作の人形を巧みに操り、大道で人形劇を見せているが、人気はなく、通行人に殴られる始末。狭いアパートに妻のロッテが飼うチンパンジーやイグアナたちと暮らしている。
 妻からそろそろ人形師以外の仕事を探してはどうかと勧められ、求人広告で見つけたファイル係に応募する。オフィスは雑居ビルの七と二分の一階(七階と八階の間)にあり、手先の器用さを認められて採用される。その天井の低いオフィスでたまたま書類棚の裏に封印された扉を発見し、中に入るとトンネルがマルコヴィッチ本人の頭脳に通じているのだ。マルコヴィッチが見たり聴いたり感じたりしていることが十五分間だけ体験できる。クレイグは同じフロアのセクシー美女マキシンにそのことを打ち明けると、すぐに商売にすることとなり、口コミで行列ができる。
 マキシンは色仕掛けで俳優マルコヴィッチ本人に近づき、籠絡する。クレイグの妻ロッテは夫を問い詰め、秘密の穴に入ると、たまたまマルコヴィッチがマキシンとデートしている場面。マルコヴィッチに乗り移ったままマキシンと女同士の官能に溺れる。マキシンの態度に不審を抱いたマルコヴィッチはオフィスを訪れ、行列に並んで自分自身もまた、この穴に入る。マルコヴィッチが見たマルコヴィッチの頭の中の様子は、相当に異常で笑える風景だった。
 やがてクレイグはマルコヴィッチの中に入り込んで、これを人形のように自由に操り、マルコヴィッチになりすます。そして俳優から人形師に転身したマルコヴィッチとして絶賛され、芸術家として成功するのだが。

 

マルコヴィッチの穴/Being John Malkovich
1999 アメリカ/公開2000
監督:スパイク・ジョーンズ
出演:ジョン・キューザックキャメロン・ディアスキャサリン・キーナージョン・マルコヴィッチ、オーソン・ビーンチャーリー・シーン、メアリー・ケイ・プレイス