シネコラム

第465回 時計じかけのオレンジ

第465回 時計じかけのオレンジ

昭和四十七年九月(1972)
大阪 難波 なんばロキシー

 

 私のキューブリック初体験は『時計じかけのオレンジ』で、十八歳だった。主人公のアレックスは高校生の設定だからほぼ同世代である。
 一九六〇年代末から七〇年代初めにかけてのあの頃、古い価値観が壊され、新しい文化が町中に出現し、氾濫する時代だった。
 キューブリックが描く近未来のロンドン。学校をさぼってミルクバーに集う山高帽に白い上下の四人組。リーダー格のアレックスは音楽マニアでベートーベンが大好き。今日もドラッグ入りのミルクを飲み、暴力に明け暮れる。
 ホームレスの老人を襲撃したり、別グループと乱闘したり、猛スピードで車を飛ばし、郊外の作家の家に押し入り、主人を痛めつけ、その目の前で妻を強姦する。そのとき、アレックスが歌うのが懐かしい『雨に唄えば』なのだ。歌いながらステッキで夫を殴り倒し、妻の服を切り裂いていく。
 が、やがて仲間に裏切られ、強盗殺人の現場にひとり取り残されて、現行犯で逮捕され、殺人罪で刑務所に。
 猫を被って模範囚を装い、刑期短縮のため、犯罪抑止療法の実験台に志願する。この実験の痛々しいこと。その結果、暴力とセックスに拒否反応を起こし、殴られても反撃できず、裸の女性を見ても嫌悪感を催す。実験は成功し、無事出所。
 晴れて両親の家に帰ると、すでに彼の居場所はなく、町をさまよっていると、かつて襲撃したホームレスの老人に仕返しされ、警官に助けを求めると、それがかつてアレックスを裏切った不良仲間で、さらに痛めつけられる。
 暴力とセックスと犯罪を愛する強姦魔であり、人殺しであった極悪人アレックスが羊のように無害になったとたん、次々と災難に襲われるという皮肉。
 十八歳の私にとって、たまらなく刺激の強い映画だった。

時計じかけのオレンジ/A Clockwork Orange
1971 アメリカ/公開1972
監督:スタンリー・キューブリック
出演:マルコム・マクダウェル、パトリック・マギー、マイケル・ベイツ、エイドリアン・コリ、ミリアム・カーリン、ウォーレン・クラーク、スティーブン・バーコフ

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