シネコラム

第450回 アナザーラウンド

第450回 アナザーラウンド

令和三年九月(2021)
新宿 新宿武蔵野館

 

 酒好きにとっては酒は百薬の長である。が、下戸にとっては百害あって一利なし、命を削る鉋とも言われる。なにごともほどほどがいいのだが、一線を越えると後戻りできなくなり、一気に破滅に向かうのが酒である。
 最初の場面は高校生たちのビール飲み大会。ケースを抱えて湖の周りを走り、一気飲み競争。デンマークでは十六歳から合法的に酒が買えるそうで、つまり飲酒可である。
 高校の歴史教師マーティンは退屈でひとりよがりな授業が生徒たちの批判を受け、保護者たちから大学受験に大丈夫なのかと追及される。家庭では妻とほとんど会話がなく、ふたりの息子からも無視されがち。地味で面白みのない中年男なのだ。
 同僚の心理学教師ニコライの誕生日を祝うため、音楽教師のピーター、体育教師のトミーとともにレストランで食事する。妻とは会話のないマーティンもこの三人とは仲がいい。
 車だからと最初のうち炭酸水を飲んでいるマーティンだが、三人に勧められ、とうとうシャンパンを口にする。ああ、うまい。
 ニコライが言う。ノルウェイの哲学者によれば、血中のアルコール濃度を〇・〇五パーセントに保っていると、ほろ酔いで気分が高揚し、自信が持てて前向きになり仕事の効率が上がるとの理論がある。ヘミングウェイは昼から飲み続け、夜八時から執筆を開始し、たくさんの名作を残した。
 そこで四人は実験することに。学校内に酒を持ち込み、飲んで授業するとどうなるか。マーティンの歴史の授業が突然楽しくなり、生徒たちの成績も上がる。家庭では妻との間の壁が徐々に取り除かれる。他の教師三人もみな上々である。
 〇・〇五パーセントでこれだけ成果が上がったのだからと、四人はさらに酒量を増やすことに。酒飲みは結局そうなるのだ。羽目を外すのは楽しい。泥酔して後悔先に立たず。
 うまそうに酒をあおるマッツ・ミケルセンを見ていると、つい飲みたくなるが、『失われた週末』にならぬよう用心しなくては。

アナザーラウンド/Druk
2020 デンマーク/公開2021
監督:トマス・ビンターベア
出演:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネビー、ヘリーヌ・ラインゴー・ノイマン、スーセ・ウォルド

 

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