シネコラム

第443回 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2

第443回 バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2

平成元年七月(1989)
吉祥寺 吉祥寺スカラ座

 

バック・トゥ・ザ・フューチャー』第一作はストーリーも完璧で、個性的な脇役に恵まれた。天才科学者でありながら常識はずれで、どこか抜けているブラウン博士役のクリストファー・ロイド、マーティの父親で虚栄心はあるが気弱で卑屈な負け犬ジョージ・マクフライ役のクリスピン・グローバー、このふたりの演技があまりにエキセントリックで、もうひとりの脇役、ビフ・タネン役のトーマス・F・ウィルソンの印象が薄くなりがちである。
 実はウィルソンの役作り、とても丁寧で見事なのだ。ビフ・タネンのような人物はどこにでもいる。なんて嫌な奴だろうと思わせるリアルな演技。下品で頭は空っぽ、知性や教養とは無縁だが、卑怯でずる賢い。金と女が大好きで、セクハラ、パワハラ、弱い者いじめで人を支配する権力志向のブタ。大統領にだけはしたくないタイプだが、第二作にはそんなビフが支配するパラレル「クソ」ワールドが出現するのだ。
 第一作のラストシーンから物語は始まる。ブラウン博士がマーティとジェニファーを三十年後の二〇一五年に連れて行く。マーティの息子が事件に巻き込まれるのを阻止するために。老人となった未来のビフ・タネンがその場を目撃し、タイムマシンの秘密を知り、スポーツ年鑑を一九五五年の若かりし自分自身に手渡す。
 一九八五年の現代に戻ったマーティは驚く。そこは堕落と退廃の町になっていた。父のジョージは亡くなり、母がビフの妻になっている歪んだ世界。未来のスポーツ年鑑の記録から賭博で大儲けしたビフが億万長者となり、汚い金と悪の力で支配する一九八五年。まるで『素晴らしき哉、人生』である。
 マーティとブラウン博士は歴史を修正するためにまた一九五五年のあの日に戻る。そして、この作品自体、第三作ウエスタン編への伏線であり、架け橋となっている。
 残念なのは二〇一五年の未来世界がおざなりなこと。第一作でSF作家になったジョージ・マクフライが脇で活躍する未来なら、もっと面白かったに違いない。その二〇一五年も現実にはとっくに過ぎ去ってしまったが。

 

バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2/Back to the Future Part II
1989 アメリカ/公開1989
監督:ロバート・ゼメキス
出演:マイケル・J・フォックスクリストファー・ロイドリー・トンプソン、トーマス・F・ウィルソン、エリザベス・シュー、ジェームズ・トルカン

 

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