第420回 ダイ・ハード
平成元年三月(1989)
新宿歌舞伎町 新宿プラザ
不死身でもなく特殊能力もない生身のヒーローがたまたま凶悪事件に巻き込まれ、ひとりで敵に立ち向かう『ダイ・ハード』は、なんといっても画期的だった。
ニューヨークの刑事ジョン・マクレーンは別居中の妻子に会うため、クリスマスにロサンゼルスへやってくる。すれ違う美人を見ると、西海岸だぜと独り言をつぶやく。妻が重役を勤める日系企業ナカトミビルではクリスマスパーティの最中。妻のオフィスで靴を脱いで一休みしていると、いきなり銃声と悲鳴が。
テロリストの一味が金庫に保管された債券を奪うため、ビルを占拠し社員を人質に立てこもったのだ。とっさに身を隠し、マクレーンは裸足のまま考える。当時はまだ携帯電話が普及しておらず、外に知らせる方法がない。そこで、火災報知器を作動させるが、消防車は誤報との連絡を受け引き返す。マクレーンはビルのあちこちを逃げまわり、探りにきたテロリストを殺害して銃と無線機を奪い、孤立無援で敵をひとりひとり片付けていく。ぶつぶつと独り言をつぶやきながら。
それまで軽いコメディに出ていたブルース・ウィリスは、ジョン・マクレーン役が大当たりし、一躍大スターとなった。
そして冷酷で卑劣なテロリストのリーダーを演じたアラン・リックマンもまた、癖のある脇役や悪役として名を売ることになる。
『ダイ・ハード』の大ヒットですぐに続編『ダイ・ハード2』が作られたが、それとは別に、主人公がテロリストと戦う類似作品が雨後の筍のように続々と出現した。
その中でも一番私が驚いたのがハリソン・フォード主演の『エアフォース・ワン』だ。これはナカトミビルを大統領専用機に、ニューヨークの刑事を大統領本人に置き換えただけで、大統領が機内を占拠したテロリストたちと戦うというストーリー。かなり細かい展開までが『ダイ・ハード』にそっくりだった。ちなみにこのときテロリストを演じたのがアラン・リックマンならぬゲイリー・オールドマンである。
ダイ・ハード/Die Hard
1988 アメリカ/公開1989
監督:ジョン・マクティアナン
出演:ブルース・ウィリス、ボニー・ベデリア、レジナルド・ベルジョンソン、ウィリアム・アザートン、アラン・リックマン、アレクサンダー・ゴドノフ