シネコラム

第410回 パリの調香師 しあわせの香りを探して

第410回 パリの調香師 しあわせの香りを探して

令和三年四月(2021)
飯田橋 ギンレイホール

 

 香水といえばパリ。縁のない私でもディオールやシャネルの名前ぐらいは知っている。そもそもフランスで香水が発達したのは、悪臭がひどかったから。それもまた有名な話だ。トイレが完備されず、入浴の習慣もほとんどなかったらしい。香水は悪臭緩和の必需品だった。
 それはともかく、今や世界に誇るパリの最高級の香水。香料や薬品の組み合わせで、調香する専門家が調香師。人並すぐれた嗅覚がなければ務まらない。これは調香師という珍しい職業の女性と、彼女にかかわった運転手の交流を描いたコメディである。
 ギヨームは派遣ハイヤーの運転手をしている。離婚した妻のもとにいる十歳の娘とたまに会うのが何よりも楽しみだが、交通違反で失業寸前。泣きついて仕事をもらったはいいが、女性客アンヌが気難しく、禁煙を命じられ、ホテルのシーツが洗剤臭いといっては交換させられ、仕事先ではメモまでとらされる。
 不愛想で人使いの荒いアンヌに腹をたて、彼女の家の前の路上に荷物を置いたまま喧嘩腰で立ち去るギヨーム。苦情でクビになったらどうしようと心配していると、次にも指名される。気に入られたようなのだ。
 アンヌの仕事が調香師で、かつてディオールで華々しくデビューし、次々に新作の香水を発表したが、一時的に嗅覚をなくし、一線を退き、嗅覚回復後も香水の世界には戻れず、企業などの依頼で洞窟の匂いを再現したり、高級鞄のなめし革の悪臭を消したりしている。
 送迎を繰り返すうち、お互いに少しずつ心を開いて、悩みなども打ち明ける。娘と過ごす時間を大切にしたいギヨーム。再び新作の香水を作りたいアンヌ。
 ところが、なかなかすんなりとはいかない。大事な仕事の前につい酒を過ごして、鼻が利かなくなるアンヌ。スピード違反で職を失うギヨーム。
 最初にいがみ合った男女がだんだん仲良くなるのはラブコメディの定石だが、フランス映画なのに、そうはならず。そこがまた洒落ている。

 

パリの調香師 しあわせの香りを探して/Les Parfums
2019 フランス/公開2021
監督:グレゴリー・マーニュ
出演:エマニュエル・ドゥボス、グレゴリー・モンテル、セルジ・ロペス、ギュスタブ・ケルベン、ゼリー・リクソン、ポリーヌ・ムーレン