第409回 魔法にかけられて
平成二十年二月(2008)
有楽町 よみうりホール
型通りの古典的なディズニーアニメーションで物語が始まる。おとぎの国の森に住む乙女ジゼルは王子様との出会いを夢に見て、動物たちと歌って暮らしている。そこへ白馬の王子エドワードが唐突に現れ、ふたりは一目で運命の恋に落ちる。王子の継母の女王ナリッサが邪悪な魔女で、ふたりの結婚を阻止するため、ジゼルを「永遠の愛など存在しない世界」へと突き落とす。
自動車が行きかう夜の町のマンホールから顔を出すジゼル。彼女が迷い込んだ愛のない恐ろしい世界こそ、現代のニューヨークだった。ここから映画は俳優による実写となる。
妻に去られて幼い娘と二人暮らしのロバートは離婚専門弁護士で、たまたま町をさまようジゼルに出会い、これを助ける。単純であどけないおとぎの国から抜け出した乙女と、ぎすぎすした現代都市ニューヨークのミスマッチ。
ジゼルを追って、やはりニューヨークに現れたエドワード王子の道化ぶり。女王に命じられジゼルを毒りんごで殺害しようと企む従僕ナサニエル。
言葉が急に歌になったり、動物たちと会話したり、この変な女性にとまどいながらも、現実主義のロバートの心が不思議にときめき、世知辛いニューヨークがほんの少しだけ、夢のある世界に変わっていく。そして、王子との永遠の愛を夢見ていた単純なジゼルの心にも変化が。これはファンタジックなラブコメディであり、ディズニーによるディズニーのセルフパロディでもあるのだ。
それにしても、ジゼルのエイミー・アダムス、王子のジェームズ・マースデン、従僕のティモシー・スポールなどディズニーアニメから抜け出てきたようなキャスティングの妙。そして、現実世界に現れた女王の実写がスーザン・サランドンとは、実に見事。その後の『シンデレラ』『マレフィセント』『アラジン』などの実写化は、この『魔法にかけられて』がきっかけかもしれない。
魔法にかけられて/Enchanted
2007 アメリカ/公開2008
監督:ケヴィン・リマ
出演:エイミー・アダムス、パトリック・デンプシー、ジェームズ・マースデン、スーザン・サランドン、ティモシー・スポール、イディナ・メンゼル