第406回 ミッドナイトスワン
令和二年十二月(2020)
新宿歌舞伎町 TOHOシネマズ新宿
トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団はニューヨークに本拠を置く舞踊団であり、男性のダンサーたちが『白鳥の湖』などクラシックの名作をユーモラスな演出でパロディとして踊るので人気がある。もちろんダンサーたちがいずれも高い技術を持っていればこそのパロディではあるが、派手な化粧の大柄な男たちがバレリーナの衣装で踊るのは、そもそもどこか滑稽なのだ。
『ミッドナイトスワン』の出だしは新宿のゲイバーでのショウタイム『白鳥の湖』である。決して上手ではないが、客には受けている。踊っているのは草彅剛演じる凪沙、もう若くないし、店は不景気でもある。
そんな凪沙のアパートへ従妹の娘、中学生の一果が転がり込む。母親の育児放棄と虐待が原因で故郷の広島から東京へ短期転校することになった。不愛想で打ち解けない一果と親元からの送金につられて渋々世話をする凪沙。お互い不本意ながらの同居生活が始まる。
そんな一果が通学の途中でバレエ教室を見つけ、興味を示す。幼い頃からバレエを習っていた様子で、教室の先生に声をかけられ、見学から、やがてはレッスンに通うことになる。先生は彼女の素質に気付き、これを伸ばそうとする。
最初は反対していた凪沙が、次第に一果に肩入れし、彼女をバレエコンクールに出すために、なりふりかまわず働く。まるで母親のように。
才能をどんどん伸ばし、上昇する白鳥のごとき一果。
逆にどん底に転落していく凪沙は『瀕死の白鳥』を思わせる。
そう思うと、最初のゲイバーでのトラストジェンダーによる『白鳥の湖』のなんと物悲しいことであろう。彼らはみな、呪いが解けず、白鳥のまま人間の女性に戻れないオデットそのものではないか。
この名曲を作曲したチャイコフスキーもまた、同性愛者だったそうである。
ミッドナイトスワン
2020
監督:内田英治
出演:草彅剛、服部樹咲、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖