シネコラム

第403回 1917 命をかけた伝令

第403回 1917 命をかけた伝令

 

令和二年十月(2020)

飯田橋 ギンレイホール

 

 戦場で起きた午後から翌朝までの出来事を二時間足らずで描いて、しかもワンカット。いったいどうやって撮影したのだろう。まるで魔法ではないか。

 いい映画の条件はいろいろある。ユニークなアイディア、練られた脚本、熟練した俳優のリアルな演技。そして、やはり映画である以上、映像のすばらしさが作品の質を左右する。

 一九一七年、第一次大戦中のフランス。撤退したドイツ軍を翌朝、英軍の部隊が追撃する準備をしている。ところが、撤退は見せかけで、深追いする英軍を待ち伏せて一気に全滅させるのがドイツ側の作戦だと判明する。電話線が切られ、司令部から最前線へ攻撃中止の命令が出せない。そこで二人の兵士が伝令に選ばれる。設定としては『まぼろしの市街戦』に近いかもしれない。

 草原でのんびり昼寝しているブレイクとスコフィールドが司令部へ呼ばれ、明朝までに中止命令を届けるよう命じられる。間に合わなければ味方に多くの犠牲が出る。ブレイクが選ばれたのは兄が将校として最前線の部隊にいるからで、スコフィールドはたまたまブレイクといっしょに昼寝していただけ。とんでもない事態に驚きながらも、ふたりは戦場を駆けて行く。途中の様々な危難。ほんとにたどりつけるのだろうか。

 これがすべてワンカットなのだ。デジタルで長時間の長回しが可能になったればこそ、こんな撮影ができるのだろう。そして、すべての場面が絵になる美しさ。

 もちろん、午後に司令部を出発し、平野や村や森を通り抜け、夕暮れになり、夜になり、朝になるまでを二時間足らずのワンカットで撮れるわけがないので、そこには様々な工夫がなされている。その技術とリハーサルと計算は並大抵ではなかろう。

 映画を観ている観客は、まるで兵士といっしょに戦場を駆けめぐっているような一体感を経験する。

 映画館にはなかなか行きづらい状況だが、これこそ、劇場の大画面で観るべき作品である。

 

1917 命をかけた伝令/1917

2019 イギリス・アメリカ/公開2020

監督:サム・メンデス

出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、マーク・ストロングアンドリュー・スコット、クレア・デュバーク、リチャード・マッデンコリン・ファースベネディクト・カンバーバッチ