森川雅美・詩

明治一五一年 第17回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年 第17回

 

いくつかの記録の狭間に落ちていく

人の声を拾いながら

慶応三年の陸奥の背の

すでに一五一年の影たち

が燃える静かな刻限が近づき

明治二八年の大陸への貧しき傷の

北上する足と南下する足の吃音

の重なりは届かぬ野だと

明治三八年の波立ちの

いつまでも消えない朽ちかけた

無数の影たちに呼ばれ

大正七年の崩れ行く体の

失われ続ける一瞬の目の内側の萌す

あわい光の粒を包む

大正八年の蔓延する病の

いくつかの記録の淀む

彼方に呼ばれる指の動きに沿う

大正一二年の燃え続ける人たちの

ならば一つずつの脆い思い出

は誰かの内の地平の輝きへ

昭和五年の浮遊する足首たちの

一五一年はまだ終わらずに色褪せ

永らえる人の息こそ

昭和二〇年の目の裏の発光の

啄まれていく皮下出血に

なりもう消えた唇の畔に留まる

平成二三年の還らない水の絡まりの

薄れる背中の連なりを追いながら

揮発する爪の陥没だ

令和二年の新しい死者たちの

 

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