シネコラム

第386回 フランケンシュタイン(1931)

第386回 フランケンシュタイン(1931)

平成三年九月(1991)
大泉 練馬区立勤労福祉会館

 

 フランケンシュタインを描いた映画はたくさんあるが、やはりボリス・カーロフ主演の『フランケンシュタイン』が一番有名であろう。日本での初公開は昭和七年であり、戦後もたびたびTVで放映された。ドラキュラ、狼男と並ぶ三大怪奇キャラクターである。
 その後続々作られるフランケンシュタインものの映画、イラストやコミックなどでもカーロフ演じる怪物の造形が踏襲され、映画を観ていない人までもが、頭の平な醜いあの大男を見ただけでフランケンシュタインとわかるほどだ。
 それゆえ、怪物の名がフランケンシュタインと思われがちだが、正確には怪物には名前がない。怪物を作ったのがフランケンシュタイン博士、あるいはフランケンシュタイン男爵。フランケンシュタインは創造主の名前なのだ。あまりに広まりすぎて、創造主を無視し、怪物がフランケンシュタインの名で呼ばれることも多い。
 小高い丘の上の屋敷に住むフランケンシュタイン男爵は墓場から集めた死体をつなぎ合わせて、実験室の塔の上から雷の電流を取り込み、人造人間を完成させる。
 だが、その創造物はあまりに醜く、男爵は手に負えなくて捨ててしまう。怪物は自分を創って捨てた創造者に復讐する。
フランケンシュタイン」は手に負えない怪物を創ったために翻弄される創造主の代名詞でもあるのだ。
 ウィリアム・ホールデンオードリー・ヘップバーンが共演した『パリで一緒に』は、映画界を描いたコメディだが、ホールデンふんするスランプのシナリオライターが口述筆記に雇ったタイピストに言う。
マイ・フェア・レディフランケンシュタインは同じ話なんだ」
 するとタイピストのオードリー、びっくりして考え込み、はっとする。
「イライザが怪物なのね」
「そう。でもだれにも言わないでくれ。今度シナリオ創作法を書くときに使うから」

 

フランケンシュタイン/Frankenstein
1931 アメリカ/公開1932
監督:ジェームズ・ホエール
出演:コリン・クライブ、ボリス・カーロフ、メイ・クラーク