シネコラム

第377回 リチャード・ジュエル

第377回 リチャード・ジュエル

令和二年七月(2020)
飯田橋 ギンレイホール

 クリント・イーストウッドは俳優としても大好きだが、映画監督としても名作、佳作をたくさん撮っている。
『リチャード・ジュエル』は一九九六年のアメリカ、アトランタオリンピックで起きた爆弾事件を描いた実話である。
 親切で善良で正義感の強いリチャード・ジュエルは法の番人に憧れ、警察官志望だが、いささか変人で母親と二人暮らし。規則を守りすぎて融通が利かないこともあり、周囲から持て余され、職を転々とする。アトランタオリンピックでは、公園で開かれた記念コンサート会場の警備員を務めていた。
 ライヴの最中、ベンチの下に不審なバッグを発見したリチャードは警官以上に警官らしくふるまい、現場の捜査官に通報、中身が爆弾であることがわかるや、コンサートに熱狂している市民たちを警官たちといっしょになって退去させるため奮闘する。そこで爆発。
 第一発見者の彼はTVや新聞で取り上げられ、英雄として絶賛され、TV出演や出版依頼も舞い込む。が、まもなく、FBIがリチャードを容疑者としてマークしていることが新聞にスクープされ、たちまち非難の嵐が吹き荒れる。
 自宅前に押し寄せるメディアと野次馬、鳴り続ける電話。息子を誇りに思っていた母親はたった三日で逆転した世間の風評におろおろする。
 なんとかリチャードを犯人に仕立てようと画策するFBI。果たしてリチャードは潔白を証明することができるのか。
 リチャード役に実在のリチャード・ジュエルそっくりのポール・ウォルター・ハウザー。リチャードの無実を確信し弁護する弁護士にベテランのサム・ロックウェル。母親にキャシー・ベイツ。見ごたえあり。
 これは二十数年前の出来事だが、インターネットが世界の隅々まで普及した今なら、もっと恐ろしい非難や陰惨な嫌がらせが巻き起こっただろう。


リチャード・ジュエル/Richard Jewell
2019 アメリカ/公開2020
監督:クリント・イーストウッド
出演:ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェルキャシー・ベイツジョン・ハム、オリビア・ワイルド、ニナ・アリアンダ、イアン・ゴメス