シネコラム

第376回 黒い司法 0%からの奇跡

第376回 黒い司法 0%からの奇跡

令和二年一月(2020)
神谷町 ワーナーブラザース試写室

 アメリカの人種問題は根が深い。奴隷として使役させられていた黒人たちは、南北戦争後、解放はされたが、依然として差別は続いた。黒人は奴隷時代とさほど変わらぬ低賃金の重労働に甘んじるしかなかった。
 一九三〇年代の南部を描いた『アラバマ物語』は、白人女性の嘘の証言で逮捕された無実の黒人青年を弁護をするグレゴリー・ペックが主人公だった。明らかに無罪でありながら、白人陪審員たちの偏見によって青年は有罪にされ、護送の途中で殺害される。
 かつてアメリカ南部では、白人が黒人を殺してもたいして罪にもならず、リンチによる虐殺も絶えなかった。
 そのアラバマで一九八〇年代に実際に起こった実話が『黒い司法』である。
 ハーバード大のロウスクールを出た若きエリート弁護士の黒人青年ブライアン・スティーブンソンは、一流企業への就職を選ばず、南部での人権支援団体に身を投じる。
 彼は刑務所で死刑囚たちと面談する。そこで出会うのが、なんの証拠もなく、不当に逮捕され、犯してもいない殺人でまともな裁判も受けず死刑を宣告されたウォルター。
 有罪の根拠は刑務所内の白人受刑者による証言だけ。ウォルターのアリバイを主張する多くの黒人たちの証言は無視され、中には偽証罪で解雇される者までいて、すべて却下。
 ブライアンはウォルターの無実を証明するため、あらゆる手をつかって情報を集め、再審請求するが……。
 実話の冤罪事件なので、結末はわかっているつもりでも、やはりはらはらしてしまう。
 人はどんな人をも差別してはならない。が、差別主義者だけは人として許すべきではない。映画はそれをわかりやすく教えてくれる。
 実在のブライアンをマイケル・B・ジョーダン、死刑囚ウォルターをジェイミー・フォックスが演じる。

 

黒い司法 0%からの奇跡/Just Mercy
2019 アメリカ/公開2020
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
出演:マイケル・B・ジョーダンジェイミー・フォックスブリー・ラーソン、ロブ・モーガン、ティム・ブレイク・ネルソン、レイフ・スポール、オシェア・ジャクソン、カラン・ケンドリック