森川雅美・詩

明治一五一年 第12回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年 第12回

いくつかの背骨を
拾うためつづく並木は
いくつかの不明の
内にまだ洗われていく
人たちの歩く道筋の彼方
明治元年の帰らない
には深深とした
逃げいく足が
平坦にならされ静かになる
風向きに弱まる土
に重なりつづく痛みだ
明治二十八年の帰らない
と揺らぐ多くの影が誰かの
夢の中に集う
感触に響く違う乱雑が
呼ばれる耳の深さ
水辺にも記憶する在りし日
明治三十八年の帰らない
の残光を放つ
積み重なる悲しみ
は終りのない言伝なら
はるかな道の先で無数の
人も繋がり並ぶ
大正九年の帰らない
いくつかの心音が足元の
囁きにも響けば
いくつかの断ち切れた
名残の触感を繋ぐ
もう知らない人
大正十二年の帰らない
の朽ちかけた掌の内側が
飛び散りきらめく
無数の命の欠片を零す
留まる嘆息が緩やかに漂う
今日の日付か
昭和二十年の帰らない
と長く洗われていく弱まる
面影は届かず
さらに遠くから
低く聞こえくる声や足や
細胞がひそかに
平成十一年の帰らない
方方に拡散する終わらぬ
一瞬にさらされる
巻き戻される鮮やかな
末期を断つために
高い青空の滲みを望む
令和二年の帰らない

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