シネコラム

第371回 一度死んでみた

飯島一次の『映画に溺れて』

第371回 一度死んでみた

令和二年二月(2020)
築地 松竹試写室

 

 この世に生まれた以上、人は必ず一度は死ぬ運命である。生まれてすぐに亡くなる赤子もいれば、九十、百まで長生きし天寿を全うする老人もいる。死に方も病気、事故、犯罪、戦争など様々。今は新型コロナウィルスが世界で蔓延しており、毎日多くの人々が亡くなっている。感染者や死亡者が日に日に増える状況はまるでSF映画の悪夢のよう。
 人口の過密する東京も外出の自粛で映画館も試写室も上映はない。今年の三月以降はほとんど映画を観ていないが、二月にはまだ普通に試写があったのだ。その一本がコメディの『一度死んでみた』である。
 いきなり「死ね、死ね、死ね、死ね」を連発するデスメタルバンド。ボーカルの七瀬は大学の薬学部に通う女子学生で、製薬会社の社長の娘。父親と二人暮らし。父が死ぬほど大嫌いで、ステージで歌う「死ね、死ね、死ね」は、病気の母の臨終にも立ち会わず会社で仕事をしていた憎い父親に向けたものなのだ。
 父の野畑は会社で若返り薬を開発中だが、その副産物として二日間だけ完全な仮死状態となる薬ができてしまう。それをジュリエットと名づけ、自分で試す。すると実際にあの世からお迎えが来て三途の川を渡りそうになる。父の急死を知らされ驚く七瀬。
 野畑製薬に潜入しているライバル会社のスパイがこの事実を知り、野畑が蘇る前に急遽葬儀を行い火葬してしまおうと企む。さらにそれを知った若手社員が七瀬と協力して火葬を阻もうとする。それを半分幽霊となった父が横から見てあたふたする。ドタバタである。
 娘が広瀬すず、父親の社長が堤真一、若手社員が吉沢亮、あの世からの案内人(死神?)がリリー・フランキー、死んだ母親が木村多江、産業スパイが小澤征悦、ライバル会社の社長が嶋田久作、仮死薬を開発した研究員が松田翔太、その他、小さな役も豪華で妻夫木聡佐藤健、でんでん、池田エライザ古田新太竹中直人らがちらっと出てくる。
 今のような時期はこういう映画で大いに笑うことが大事なのだが、三月二十日の公開後、すぐに自粛が始まって、はなはだ残念。一日も早いコロナ禍の収束を願うばかりである。

 

一度死んでみた
2020
監督:浜崎慎治
出演:広瀬すず吉沢亮堤真一リリー・フランキー小澤征悦嶋田久作木村多江松田翔太

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