シネコラム

第367~369回 ジュディ 虹の彼方に、他

第367回 ジュディ 虹の彼方に

令和二年三月(2020)
新宿歌舞伎町 TOHOシネマズ新宿

  ハリウッドのMGMスタジオで十代の無名の少女ジュディはプロデューサーのルイス・B・メイヤーに言われる。この壁の向こうに何があるか、わかるかね?
 そこには映画という別世界、完成したばかりの『オズの魔法使』のセットがあり、エメラルドの都があった。少女はドロシー役に抜擢され、一躍世界的な大スターとなる。
 三十年の月日が流れ、時代は一九六〇年代の後半、中年となったジュディ・ガーランドは酒と薬に溺れ、映画界での仕事を失い、子連れで細々とクラブを回って歌っている。が、わずかなギャラでは部屋代も満足に払えず、ホテルを転々とする。
 そんな彼女に舞い込んだのが、ロンドンでのショー。子供を元夫に預けて単身ロンドンへ。映画界から遠ざかっていても、スターとしての名声はまだまだ忘れられていない。
 このロンドンでのショーのステージが実に見事なのだ。
 薬で不安を抑え、スタッフをはらはらさせながら、長年のキャリアで培った実力がここぞとばかりに発揮される。が、トラウマのようにところどころ挿入される少女時代のハリウッドのエピソード。不眠不休、薬漬けでの撮影は重労働であり、ルイス・B・メイヤーの威圧的な目が常に光っていた。撮影所内でのミッキー・ルーニーとのデートやプラスチックの模造ケーキの誕生パーティは現実とはほど遠い。今のジュディはそれらの過去の積み重ねによって作られたスターでもあるのだ。
 ジュディ・ガーランドが憑依したかのごとき、レネー・ゼルウィガーの迫真の演技と熱唱。ゼルウィガーのガーランドぶりを見るだけでも、この映画は値打ちがある。
 名曲『虹の彼方に』はどこで歌われるのだろうかと待ち構えていたら、なるほど、うまい演出である。

ジュディ 虹の彼方に/Judy
2019 イギリス/公開2020
監督:ルパート・グールド
出演:レネー・ゼルウィガージェシー・バックリー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェルマイケル・ガンボン


第368回 オズの魔法使

昭和五十四年五月(1979)
新宿歌舞伎町 アートビレッジ

 私が映画『オズの魔法使』を最初に観たのはTV放映だが、その後、歌舞伎町の小さなスペースで『雨に唄えば』と二本立てで観ることができた。すばらしいミュージカルの組み合わせ、今でも忘れられない。
 最初の場面は白黒で始まる。あれ、カラーと思ったら、白黒映画だったのか。観ていると、竜巻でドロシーがオズの世界へ家ごと飛ばされて、マンチキンたちとの出会い。そこでいきなりカラーになるという演出。戦前の映画でカラーは『風と共に去りぬ』『スタア誕生』『ロビン・フッドの冒険』ぐらいしか私は観ていない。あとディズニーアニメもカラーだったか。
 主題歌の『虹の彼方に』は大好きだが、ドロシーがかかしとライオンとブリキのきこりを従えて、歌って踊りながらエメラルドの道を進む場面、今でもあの歌声が耳に残っている。
 頭の中身が藁屑なので、賢くなりたいかかし。臆病だから勇気が欲しいライオン。人間らしい感情を取り戻したいブリキのきこり。彼らの望みを叶えるオズの魔法使いの正体。空飛ぶ猿の軍団や悪い魔女との戦いも見せ場だった。
 ライマン・フランク・ボームの原作は映画を観るよりも前にハヤカワ文庫版で読んでいたが、映画はこれを忠実にミュージカル化していて、子供から大人まで万人に楽しめる作品になっている。
 ステュアート・カミンスキーの探偵小説、一九四〇年代のハリウッドを舞台にしたトビー・ピータースのシリーズは『ロビン・フッドに鉛の玉を』から『吸血鬼に手を出すな』まで五冊翻訳されている。毎回、撮影所で事件が起こり、依頼人は当時の映画人。スタイルはチャンドラーやハメットの小説に出てきそうなハードボイルド。このシリーズの第二作『虹の彼方の殺人』の依頼人が『オズの魔法使』で一躍スターになったジュディ・ガーランドという設定で、事件はまるで、オズの物語に重ねられたように展開するので、ミステリ好きの方はどうぞ。

オズの魔法使/The Wizard of Oz
1939 アメリカ/公開1954
監督:ヴィクター・フレミング
出演:ジュディ・ガーランド、フランク・モーガンレイ・ボルジャー、バート・ラア、ジャック・ハリイ、ビリー・バークマーガレット・ハミルトン


第369回 オズ はじまりの戦い

平成二十五年四月(2013)
吉祥寺 吉祥寺オデオン

 ライマン・フランク・ボームの児童文学『オズの魔法使』はベストセラーとなり、次々と続編が書かれた。映画もジュディ・ガーランド主演のあと、一九八五年に後日談の『オズ』がディズニーで作られたが、印象は薄かった。
 そして、ドロシーが竜巻に遭う以前のオズの物語を描いた『オズ はじまりの戦い』が再びディズニーで。
オズの魔法使』ではカンザスの農家の場面はモノクロ映像、ドロシーがオズの世界に入りこむと、当時はまだ珍しい総天然色の世界が広がったのだが。
 今回の主人公は、巡業サーカスの手品師。奇術の腕はまずまず、軽薄でうそつきで女たらし。発明王エジソンに憧れ、いつかそれらの技術を応用し、フーディニのような偉大な魔術師になりたいと口では言いながらも、冴えない日々を送っている。サーカスの怪力男の女房に手を出したのがばれ、血相変えた大男に追われて、飛び乗った気球が折からの竜巻に巻き込まれ。と、ここまでがスタンダードサイズのモノクロ映像。
 気球の落ちた場所は見たこともない不思議な世界。ここで画面がワイドになり、カラーとなり、さらに3Dとなって、魔法の世界を見せる、まさに映像の魔法。
 空から落ちてきた手品師は純情な魔女セオドラと出会う。ここオズの国では、王が悪い魔女に殺され、新しい王になるために空から偉大な魔法使いが舞い降りるという伝説があった。セオドラはこの手品師を王となるべき魔法使いと思い込み、エメラルドの都に案内する。王不在のオズの国を治めるセオドラの姉エヴァノラは、未知の空から来た手品師に頼むのだ。闇の森の悪い魔女グリンダを殺し、王になってほしいと。
 魔力を持たないただの三流手品師、彼はいかにして、悪い魔女を倒し、オズの大王になるのか。西の魔女や東の魔女となる彼女たちのちょっと悲しい運命も描かれている。とにかく映像はすごかった。さすがサム・ライミ監督。

オズ はじまりの戦い/Oz: The Great and Powerful
2013 アメリカ/公開2013
監督:サム・ライミ
出演:ジェームズ・フランコミラ・クニスレイチェル・ワイズミシェル・ウィリアムズザック・ブラフ、ビル・コッブス、ジョーイ・キング、トニー・コックス、アビゲイル・スペンサー、ブルース・キャンベル

 

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