シネコラム

第350回 夜霧よ今夜も有難う

第350回 夜霧よ今夜も有難う

平成十三年一月(2001)
浅草 浅草新劇場

 

 名作『カサブランカ』のパロディで一番好きなのはウディ・アレンの『ボギー俺も男だ』だが、実は日本でも和製『カサブランカ』が作れている。石原裕次郎の歌う『夜霧よ今夜も有難う』のヒットにあやかった歌謡映画の変種。
 裕次郎ふんする船乗りの相良徹は恋人の秋子と二人だけで結婚式を挙げるため、教会で待っている。教会へ急ぐ秋子、道を横切ったとたん、走ってくる自動車にはねられる。演じるは浅丘ルリ子。失踪した秋子を探し求める徹。四年の歳月が流れ、彼は今では横浜の港でクラブ経営者となっていた。
 徹は元船員のコネで、海外への密航の手助けをする逃がし屋を裏稼業にしている。そこへ東南アジア某国の革命運動家クエンが接触してくる。その妻を見て、徹は驚く。四年前に目の前から姿を消した秋子だったのだ。
 公安や手先の暴力団からつけ狙われているクエンは、最後の望みを託して徹のクラブを訪れたのだが、徹はそっけなく断る。
 が、結局は公安や暴力団の汚い手口に怒りを覚え、某国の未来を救うために、クエンの海外脱出に手を貸すことになる。その間、秋子の失踪の真相も判明し、ラストシーンに裕次郎が歌う『夜霧よ今夜も有難う』が流れる。
 裕次郎ハンフリー・ボガード浅丘ルリ子イングリット・バーグマン。クエンの二谷英明がポール・ヘンリード。
 警察署長クロード・レインズの役は裕次郎に陰で手を貸す佐野浅夫の刑事。ナチス将校コンラッド・ファイトの役が公安の内田稔。『カサブランカ』を無理なく日本に置き換えて、気持ちよく見せてくれている。
 余談ではあるが、キネカ大森でときどきモギリをする女優片桐はいりの映画エッセイのタイトルが『もぎりよ今夜も有難う』である。

 

夜霧よ今夜も有難う
1967
監督:江崎実生
出演:石原裕次郎浅丘ルリ子二谷英明高品格、郷鍈治、梶芽衣子佐野浅夫鈴木瑞穂内田稔、二本柳寛、深江章喜、榎木兵衛、長弘