第346回 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツオトナ帝国の逆襲
クレヨンしんちゃんを初めて観たのはこの映画からである。二十一世紀の最初の年に作られた『嵐を呼ぶモーレツオトナ帝国の逆襲』はシリーズ中でも出色だと思う。
私は基本的にTVは観ないが、うちの子供が小さかった頃は『ポケモン』『名探偵コナン』『ハム太郎』などいっしょに観ることもあり、これらの劇場版に子供を連れて行った。が、どういうわけか、うちの子はTVでクレヨンしんちゃんを観ていなかったので、私が映画館で観たしんちゃんは『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』が最初、それも子供を連れずにひとりで観に行った。
春日部に二十世紀博というテーマパークが作られる。一九七〇年代を中心にあの当時の風景が再現され、大人たちは子供そっちのけで大喜び。魔法使いサリーやウルトラマンやフォークソングの神田川。それだけで、われわれの世代は懐かしい。
しんちゃんの父母たちはこの春日部の二十世紀博を喜ぶ。大人たちは懐かしい匂いの虜になってしまう。子供そっちのけで何度も二十世紀博に通い、とうとう大人の責任を放棄し、子供に返って遊んで暮らすようになる。
しんちゃんたち子供は、そんな大人を冷めた目で見ているが、大人たちがハーメルンの鼠のごとく、二十世紀博のトラックに乗り込み、帰って来なくなると、たちまち食べるのに困る。大人がいなくて電力会社が動かず、夜は暗闇となる。是枝監督の『誰も知らない』に通じる状況。
しんちゃんのグループはコンビニへ食料の調達に行くが、そこには大きな小学生たちがたむろし、幼稚園児のしんちゃんたちは入れない。
このテーマパークは過去に固執する犯罪組織の陰謀であり、目的は二十一世紀の阻止。大人たちを子供時代に逆行させ、一九七〇年代を永遠に続けること。
残された幼稚園児のしんちゃんたちが、力を合わせて、子供返りした両親を救出に向かうという内容で、幼稚園バスを幼児だけで運転する場面、思い切り笑えた。笑いながらも、二十一世紀ははたしていい時代になるのだろうかと、しんみり。
クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツオトナ帝国の逆襲
2001
監督:原恵一
アニメーション 声:矢島晶子、藤原啓治、ならはしみき、こおろぎさとみ