シネコラム

第336回 心の旅路

第336回 心の旅路

平成六年四月(1994)
銀座 銀座文化

 一階がシネスイッチ銀座、二階が銀座文化劇場、二階ではいつも懐かしの名画を上映していた。しかも初公開時のパンフレットの復刻版まで販売されていて、タイムマシンで過去の映画館に来たような気分、ずいぶんと通ったものだ。その後、普通の封切り館シネスイッチ銀座2と名を変え、古い名画の上映はなくなった。
『心の旅路』を観たのもこの映画館だった。
 第一次大戦中、フランスの最前線で英国軍大尉が負傷し記憶を失う。これがロナルド・コールマン。コールマン髭で有名な二枚目だが、このころは五十過ぎ。
 大尉は霧の日に精神病院を脱け出し、終戦の祝いで賑わう町にさまよい出て、そこで踊り子のポーラと出会う。これが美女のグリア・ガースン
 ポーラは旅まわりの芸人で、楽屋で倒れた大尉を介抱し、彼をジョン・スミス、愛称スミシーと名付ける。ポーラとスミシーはお互い一目惚れ。ふたりは田舎町に引っ込みいっしょに暮らすことになる。
 彼は記憶を失ったままポーラと結婚し、子供も生まれる。文才があることがわかって、新聞社に原稿を送ると、採用の通知がきて、喜んでリバプールの町まで出かける。そこで、道路を横断しようとしてタクシーに跳ねられ、以前の記憶が戻るのだ。彼はチャールズ・レイニア、富豪の息子だった。三年前にフランスの塹壕にいたことまでは憶えているが、今度はそこから今までの記憶がまったく消えている。彼は実家に帰り、父の事業を引き継ぐ。
 年月が流れ、チャールズは今では著名な大実業家である。そして、その有能な秘書がなんと、ポーラなのだ。いったいどうして。
 彼女は夫が行方不明になり、息子が死に、自分も病気を患ったが、働きながら夜学に通い、企業の秘書となり、チャールズに引き抜かれた。だが、彼は彼女とかつて結婚したことも、息子があったことも全然憶えていない。さて、彼の記憶は、このふたりは、いったいどうなるのか。出来過ぎではあるが、記憶喪失を扱った味わい深いメロドラマである。

 

心の旅路/Random Harvest
1942 アメリカ/公開1947
監督:マービン・ルロイ
出演:ロナルド・コールマングリア・ガースン、フィリップ・ドーン、スーザン・ピータース