シネコラム

第323回 真昼の決闘

第323回 真昼の決闘

平成二十四年八月(2012)
渋谷 シネマヴェーラ

 西部劇は正義のヒーローによる勧善懲悪の物語である。ジョン・ウェインのような強い主人公が弱きを助け、強きをくじく。そして平和を取り戻した人々は彼に感謝する。
 実をいうと、私はジョン・ウェインの出演作をほとんど観ていない。最初に映画館で観た西部劇はクリント・イーストウッド主演の『続・夕陽のガンマン』だった。すでにこのころ、ジョン・ウェインがインディアンをばたばたと撃ち殺すような西部劇はなくなっていた。後に名作の誉れ高い『駅馬車』もリバイバルで観たが、さほど心に残らなかった。
 ゲイリー・クーパー主演の『真昼の決闘』は西部劇全盛時代に作られたものだが、かなり異色作であると思う。
 主人公ケインは町の保安官である。午前中に結婚式を挙げ、妻となったエミーと新生活を築くため、退職してふたりで町を出て行くばかり。そこへ知らせが届く。
 正午に到着する列車で無法者のミラーが町にやって来る。昔、ケインが逮捕した男で、刑務所を出所し、三人の仲間とともに保安官に復讐するつもりなのだ。
 さて、どうするか。いったんは新妻とふたりで逃げ出すが、思い直して引き返す。四人の悪人を町に野放しにはできない。だが、町の人たちの反応は冷たかった。ミラーの狙いは保安官である。ケインさえいなければ、やつらは何もしないだろう。ケインが保安官助手を募っても、迷惑がってだれひとり協力しない。
 そして、汽車が到着。ケインはジョン・ウェインのような無敵のスーパーヒーローではないので、ひとりで四人を相手に苦戦することになる。
 ケインとエミーの結婚式が終わったのが午前十時三十五分、ミラーの列車が到着するのが正午。この映画の長さがちょうど一時間二十五分である。
 赤狩りが荒れ狂う時期に作られた名作。タカ派ジョン・ウェインがこの頃、マッカーシーに加担し、仲間の俳優たちを脅していた場面が『トランボ』に出てくるが。

真昼の決闘/High Noon
1952 アメリカ/公開1952
監督:フレッド・ジンネマン
出演:ゲイリー・クーパーグレイス・ケリー、トーマス・ミッチェル、ケティ・フラド、ロイド・ブリッジス、ロン・チェイニー・ジュニア、イアン・マクドナルド、シエブ・ウーリー、リー・ヴァン・クリーフ

 

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