シネコラム

第315回 王女メディア

第315回 王女メディア

昭和四十九年五月(1974)
大阪 中之島 SABホール

 

 小学生の時に観た『アルゴ探検隊の大冒険』はイアソンとメディアが結ばれハッピーエンドだったが、その後のふたりは決して幸福ではなかった。
 イアソンは幼時、半人半馬ケンタウロスの賢者によって育てられ、やがてアルゴナウタイの旅。金羊毛の入手。この大冒険の部分はエウリピデスギリシャ悲劇にも、それを映画化したパゾリーニ作品にもない。
 イアソンとメディアの間には子供もでき、今はコリントの地で静かに暮らしている。コリント王はイアソンの素性と人柄を見込んで自分の娘の婿に望み、イアソンもこの申し出に心動かされる。
 妻のメディアは夫の花嫁になるコリントの姫に花嫁衣装を贈るが、この衣装には呪いがかかっていて、花嫁は焼け死ぬ。メディアは自分を捨てた夫への腹いせに、子供も殺す。メディアはもともと異郷コルキスの魔女なのだ。イアソンは花婿にもなれず、自分の愛しい子供まで妻に殺され、やがては野垂れ死に
 主演のメディアはオペラ歌手のマリア・カラスが演じている。
 坂東玉三郎主演の舞台『王女メディア』を日生劇場で観たのは、一九八三年の二月。
 パゾリーニの映画も、玉三郎の舞台もすさまじかったが、この物語、どこかで知っているような。そう、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』に似ているのだ。
 イアソンが伊右衛門で、メディアがお岩。
 若い頃、パゾリーニの映画はけっこう好きだった。『デカメロン』や『カンタベリー物語』のようなセックスコメディもいいが、おどろおどろしい『王女メディア』や『アポロンの地獄』ももう一度、観てみたいと思う。

王女メディア/Medea
1969 イタリア/公開1970
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:マリア・カラス、ジュゼッペ・ジェンティーレ、マルガレート・クレメンティマッシモ・ジロッティ、ルイジ・バルビーニ

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