シネコラム

第300回 イヴの総て

第300回 イヴの総て

平成二年十月(1990)
池袋 文芸坐


 シェイクスピア劇にも匹敵する完成度、計算されつくしたストーリー展開、善人も悪人もともに魅力ある登場人物、それを的確に演じる個性的な俳優たち。映画はこうでなければならない。
 大女優がいて、その地位を狙う女優志願の若い女がいる。それに絡むのが大女優の愛人である演出家、その友人の劇作家夫妻、お人好しのプロデューサー、老獪な劇評家、ブロードウェイの内幕物なので、出てくるのは都会的なセンスに溢れる成功者たちである。だから、会話も衣裳も当然のごとく洗練されている。
 映画界ではなく、演劇界の話であり、大女優マーゴを演じるベティ・デイビスは、通俗的な美人女優ではなく、華麗な美しさよりも実力のある芸術家の存在感を現すのにうってつけである。
 大女優は後進に新作の主役を明け渡すが、彼女には幸福な結婚があり、仲間の暖かい友情がある。一方、裏切りと陰謀でスターの地位を得た新人女優はひとりの味方もなく、孤独に戦い続けなければならない。もちろん、陰謀だけではスターにはなれないから、彼女にも類稀なる才能があったことはたしかである。
 ラストシーンで女優志願の若い女が成功した新人女優のもとへ現れるのは、ポランスキーの『マクベス』にも使われた循環の手法である。
 完璧な脚色ときめの細かい演出でジョセフ・L・マンキーウィッツがアカデミー賞を受賞したのは当然のことかも知れない。
 大スターになる前のマリリン・モンローが顔を見せているのも楽しい。


イヴの総て/All About Eve
1950 アメリカ/公開1951
監督:ジョセフ・L・マンキーウィッツ
出演:ベティ・デイビスアン・バクスター、ジョージ・サンダース、セレステ・ホルムゲイリー・メリルヒュー・マーロウグレゴリー・ラトフセルマ・リッターマリリン・モンロー