シネコラム

第285回 のり平の三等亭主

第285回 のり平の三等亭主

平成十二年五月(2000)
黄金町 シネマジャック

 一九五〇年代、TVの普及していなかった頃の映画館での一時間のホームドラマ
 東京郊外に住む新婚サラリーマン。三木のり平と中田康子。風景は『マダムと女房』に似ている。
 この若夫婦二人のところへ妻の妹が押し掛け同居。
 夫は印刷会社の社員。大学出の中流家庭だが、五〇年代の中流家庭は現代と比べると、住居も台所も格段に質素だ。が、当時はこれが庶民の目標だったのだろう。
 私が生まれた頃のことで、なんとなく懐かしい。取るに足りない夫婦間のあれこれがのどかで、今思うといい時代だったのだ。
 続篇の『のり平の浮気大学』も同じ監督、同じ配役で、妻が電気洗濯機を欲しがり、懸賞の景品が洗濯機だからと、応募のために無駄な商品を買い込んだり、夫が町内の相撲大会に出場して賞品の洗濯機を取ろうとしたり。
 電気洗濯機はまだまだ一般には手の届かない高価な品物だったのだ。
 のり平亭主は貧弱な体格なのに奮闘して相撲大会で優勝するが、せっかく取った洗濯機は施設に寄付してしまう。
 終戦直後、現実はもっと殺伐としていたかもしれない。が、映画の中では人々はみんな善良でほのぼのとして、ささやかながらも幸福な生活を送っている。

のり平の三等亭主
1956
監督:丸林久信
出演:三木のり平、中田康子、森啓子、石原忠、柳沢真一、中村是好北沢彪藤間紫、不二幸江、富田仲次郎、宮田洋容

のり平の浮気大学
1956
監督:丸林久信
出演:三木のり平、中田康子、森啓子、石原忠、柳沢真一、中村是好北沢彪藤間紫、千葉信男、北川町子、河内桃子、富田仲次郎、一の宮あつ子、沢村いき雄