シネコラム

第284回 次郎長意外伝 灰神楽の三太郎

第284回 次郎長意外伝 灰神楽の三太郎

平成十二年五月(2000)
黄金町 シネマジャック

 三木のり平といえば、真っ先に思い浮かぶのが海苔の佃煮のコマーシャルと、社長シリーズの宴会好きの課長役。なにかにつけ、うれしそうにパーッといきましょうとはしゃぐ姿。
 のり平が亡くなったとき、小学館から出た『のり平のパーッといきましょう』という本がすばらしくて、のり平の映画が観たい観たいと思っていたら、ちょうど一年後に横浜黄金町のシネマジャックで追悼特集が組まれたのだ。その特集名もやはり「パーッといきましょう」だったと思う。
 のり平の主演作『次郎長意外伝 灰神楽の三太郎』は外伝でなく意外伝。
 清水の次郎長シリーズの番外篇であり、灰神楽の三太郎が主人公のパロディなのだが、次郎長役の小堀明男や死んだ石松役の森繁久弥も脇で出演。
 灰神楽の三太郎の間抜けぶりは与太郎そのもの。中田康子がモンロー亭という飲み屋の女給まりりんお紋。マリリン・モンローの江戸版で、時代劇という枠を無視して、映画が作られた当時の一九五〇年代をそのまま表現しており、せりふにもプレゼントだのと横文字や現代語が平気で入る楽しさ。
 で、この三太郎が次郎長親分の代理で別の親分の孫の出産祝いに出かけ、兄貴分の追分の三五郎や、まりりんお紋までが同行する。お紋の旅人姿がかなりセクシーで、本家モンローを彷彿させる。
 途中、由利徹南利明八波むと志脱線トリオが偽次郎長一味として絡んだり、越路吹雪扮する仇討ちの武家の妻女を三太郎が助けたりとドタバタが続いて、ああ、また観たくなった。

次郎長意外伝 灰神楽の三太郎
1957
監督:青柳信雄
出演:三木のり平、小堀明男、森繁久弥、中田康子、由利徹八波むと志南利明、中村宗之助、本郷秀雄、小杉義男