第280回 陽気な未亡人
平成十五年十一月(2003)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷
ノエル・カワードに『陽気な幽霊』という舞台劇があり、テアトルエコーの公演を観たことがある。『陽気な未亡人』はタイトルからして、おそらくこのカワード戯曲をヒントにしているのだろう。幽霊が登場する映画だが、フランキー堺主演なので、当然ながら怪談ではなく、コメディである。
男が急死し、新珠三千代ふんする妻が未亡人となる。男は妻に未練が残り、幽霊となって妻の周辺に出没する。だれも気付かないのだが、この幽霊の狂言回しで物語が展開する。
妻の友人で料理屋の女主人が淡島千景。未亡人だが、楽しくやっている。
淡島の後輩の水谷良重は夫との仲がぎくしゃくして未亡人状態。
水谷の住む団地に野菜を届ける八百屋の未亡人が池内淳子で、農夫といい仲。
この女たちが集まって、酒を飲み、男を笑い飛ばすという快作。
注目すべきは主演のフランキー堺。
新珠の夫の幽霊役をはじめとして、水谷の夫のサラリーマン、池内の情夫の農家の主人、未亡人新珠に求婚する大学助教授、と重要な役を全部ひとりで演じているのだ。他にもマッサージ師、好色な中年紳士、アパートの遊び人、などなど小さな役も含めて七役こなす。
まあ、要するに、男なんてみんなおんなじようなものさ、というのがテーマだろうが、このひとり七役は見ものである。
陽気な未亡人
1964
監督:豊田四郎
出演:フランキー堺、新珠三千代、水谷良重、淡島千景、岸田今日子、池内淳子、坂本九