第275回 なつかしい風来坊
平成元年八月(1989)
武蔵小杉 川崎市民ミュージアム映像ホール
山田洋次監督は『男はつらいよ』以前にハナ肇主演の作品を八本撮っていて、『馬鹿まるだし』『いい加減馬鹿』『馬鹿が戦車でやって来る』などタイトルに馬鹿のつく三本が馬鹿シリーズと呼ばれている。落語を題材にした『運が良けりゃ』もまた、このシリーズに入ると思われるが、私が好きなのが『なつかしい風来坊』という佳作。
有島一郎ふんする衛生局防疫課長の良吉。医師の資格があり、茅ヶ崎に家族と住んでいる。同僚の送別会の帰り、ひょんなことから土木作業員の源さんと意気投合。ふたりとも泥酔したあげく、良吉は源さんを家まで連れて帰り、泊めてやる。
一宿一飯を恩義に感じて、源さんはちょくちょく良吉の家に通い、修理を手伝ったり、押し売りを追い返したり、息子のために犬をもらって来たり、最初はちょっと気味悪がっていた良吉の家族も、だんだんと打ち解けてくる。
ある日、自殺未遂の若い女性を助けた源さんが、これを良吉の家まで連れてきて……。
ぶっきらぼうで強面、喧嘩っ早くて、飲むとべろべろになるまで酔っぱらって、気が大きくなる源さん。ハナ肇の演じる主人公は『男はつらいよ』の寅さんよりも、ずっと単純であるが、どこにでもいそうなリアル感がある。
そして、良吉の有島一郎。ちょっと知的で、どこか病弱で、おとぼけな感じ。映画やTV、あらゆる喜劇に出ていた名脇役のコメディアン。
自殺未遂の愛子役の倍賞千恵子、山田監督の『下町の太陽』『霧の旗』『運が良けりゃ』などにも出ており、後に『男はつらいよ』で寅さんの妹のさくらとなってすべてに出演。
良吉の娘役の真山知子は蜷川幸雄夫人であり、蜷川実花の母である。
なつかしい風来坊
1966
監督:山田洋次
出演:ハナ肇、倍賞千恵子、有島一郎、中北千枝子、真山知子、久里千春、山口崇、松村達雄、市村俊幸、桜井センリ、犬塚弘、高原駿雄、鈴木瑞穂、穂積隆信