シネコラム

第274回 馬鹿が戦車でやって来る

第274回 馬鹿が戦車でやって来る

平成元年十二月(1989)
銀座 並木座

 山田洋次監督が『男はつらいよ』以前に作っていたのが『馬鹿まるだし』から始まる馬鹿シリーズ。主演はハナ肇。乱暴者の馬鹿な男が高嶺の花の美女に一途な恋心を寄せるあたり、後の『男はつらいよ』に大いに通じる。馬鹿シリーズ三作目の『馬鹿が戦車でやって来る』タイトルの戦車はタンクと読む。
 舞台はどこか田舎の閉鎖的な村。時代は戦後である。まだ終戦からさほど経っていない頃だろうか。あるいは田舎すぎて時代から取り残されているのだろうか。
 村はずれに母と弟と三人で暮らすサブは乱暴者で村中から嫌われており、大地主の仁右衛門と土地の境界で争っている。もともとは仁右衛門の土地だが、マッカーサーの農地改革で小作人だったサブの土地になったのだ。
 サブの弟の兵六は知的障害でいつも鳥の真似をしている。これがクレージーキャッツ犬塚弘
 仁右衛門の娘の紀子は幼馴染のサブや兵六にやさしい。胸を患っていたが回復したので快気祝いに村中の地主、旦那衆が集まる。紀子から声をかけられた兵六が祝いの席に出向くと、皆からさんざん馬鹿にされ、笑われて追い返される。
 地主の中に悪い奴がいて、サブの無知な母親をだまして土地を奪う。
 鳥の真似をしていた兵六はとうとう火の見櫓に登って落ちてしまう。
 かなり悲惨な物語なのだが、これがハナ肇のキャラクターもあり、大いに笑える喜劇になっている。
 ジョニー・デップ主演の『ギルバート・グレイプ』を観たとき、『馬鹿が戦車でやって来る』を思い出した。やはりは知的障害の弟が高いところに上りたがるのだが、ひょっとしてこの映画がヒントになっているのだろうか。弟役は犬塚弘ではなく、若きレオナルド・ディカプリオだったが。
 クレージー谷啓が村人から昔話を聞く釣り人の役でちらっと出ている。

 

馬鹿が戦車でやって来る
1964
監督:山田洋次
出演:ハナ肇岩下志麻犬塚弘小沢昭一花沢徳衛飯田蝶子、田武謙三、菅井一郎、穂積隆信渡辺篤、武智豊子、小桜京子高橋幸治東野英治郎谷啓