シネコラム

第271回 博士の異常な愛情

第271回 博士の異常な愛情

昭和五十年八月(1975)
大阪 中之島 SABホール

 

 最初に観たキューブリックの映画は『時計仕掛けのオレンジ』で、まだ私が十代のころだ。そのとき、この映画『博士の異常な愛情』を知り、変なタイトルだな、と思った。マッドサイエンティストの猟奇恋愛ものだろうか。実は登場人物のひとりがストレンジラブ博士という名前であり、タイトルはその直訳であった。
 アメリカとソ連の冷戦時代に作られたブラックコメディである。当時、米ソの対立は深刻で、互いに宇宙開発と核実験を続けており、核戦争の危機は現実味があった。もしも第三次世界大戦が起きたら、人類の大半は死滅する。そんなSFもたくさん作られた。そういう世の中だったのだ。
 ある日、米軍の将軍が発狂し、ソ連への出撃命令を発する。核兵器搭載の戦闘機が次々とソ連各地へ向かって飛び立つ。将軍の執務室にいた英国軍のマンドレイク大佐がそれに気づき、対処しようとするが、なかなかうまくいかず、ようやくホワイトハウスに連絡が取れる。
 大統領を囲む要人たちが打開策を話し合う。ソ連に核攻撃がなされた場合、報復として、西側諸国に核ミサイルが撃ち込まれることになる。
 核兵器の専門家ストレンジラブ博士が呼ばれて、閣議に参加。かつてヒトラーのもと、核爆弾の開発に携わっていた科学者で、大統領を何度も総統と呼び間違える。
 戦闘機を呼び戻すには暗号の解読が必要だが、それを解読できる将軍は自殺してしまう。さて、世界はどうなるのか。
 英軍大佐と大統領とストレンジラブ博士の三役をピーター・セラーズがひとりで演じていて、見ものである。
 ラストシーンに流れるヴェラ・リン『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』の甘い歌声。また会いましょう。いつか晴れた日に

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか/Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb

 

1964 アメリカ/公開1964
監督:スタンリー・キューブリック
出演:ピーター・セラーズジョージ・C・スコットスターリング・ヘイドン、スリム・ピケンズ、キーナン・ウィン、ピーター・ブル、ジェームズ・アール・ジョーンズ