シネコラム

第246回 北国の帝王

第246回 北国の帝王

昭和四十九年八月(1974)
大阪 難波 南街文化

 

 学生の頃、ロバート・アルドリッチ監督の『北国の帝王』を初めて観て、わあ、こんなのもありなんだな、と思ってしまった。ハリウッド映画なのに美男美女が出て来ないし、勧善懲悪でもない。主演の二人も名優とはいえ、華やかなスターではない。実に変な映画なのだ。
 一九三〇年代の不況時代、国中に失業者があふれている。職を求めて各地をさまよう浮浪者はホーボーと呼ばれ、広いアメリカを貨物列車に無賃乗車して移動する。その中で伝説のホーボー、北国の帝王と呼ばれるタダ乗りの名人がリー・マーヴィン
 ホーボーたちのタダ乗りを許さず、阻止し、走る列車からハンマーで叩き落とす鬼車掌がアーネスト・ボーグナイン
 簡単に言えばこの映画、タダ乗りホーボーと鬼車掌との対決がすべてである。それがまた、たまらなく面白いのだが。
 鬼車掌シャックの勤務する十九号列車にはホーボーたちは近寄らない。何人叩き落とされ命を失ったことか。その十九号に帝王のエースが挑戦する。
 ホーボーたちはエースのタダ乗りが成功するか、なけなしの金を賭けている。
 クライマックスは全速力で走る列車の屋根の上で帝王と鬼車掌の命を賭けた男の戦い。アクション映画はたいてい善玉と悪玉が戦うのだが、この映画はいったいどっちが悪玉だろうか。
 もちろん、リー・マーヴィンの演じる帝王エースが主役であり、憎々しい面構えでホーボーたちを容赦なく殺して平気な鬼車掌ボーグナインは敵役である。
 が、車掌が無賃乗車を取り締まるのは、やりすぎにせよ仕事熱心なだけで、ホーボーは社会の底辺で生きる弱者だが、鉄道会社にとっては無法者でもある。
 いずれにせよ、タダ乗りと車掌の対決だけでここまで見せるアルドリッチはすごい。

 

北国の帝王/Emperor of the North
1973 アメリカ/公開1973
監督:ロバート・アルドリッチ
出演:リー・マーヴィンアーネスト・ボーグナインキース・キャラダイン、チャールズ・タイナー