シネコラム

第232回 キング・オブ・コメディ

第232回 キング・オブ・コメディ

平成三年十二月(1991)
池袋 シネマセレサ

 ホアキン・フェニックスの『ジョーカー』を観ていて、真っ先に連想したのがマーティン・スコセッシ監督の『キング・オブ・コメディ』だ。
 ロバート・デ・ニーロ演じる売れない無名芸人ルパート・パプキンは『ジョーカー』のアーサーにすんなり重なる。
 パプキンは、お笑い界の大御所ジェリー・ランフォードのファンで、自分もジェリーのようなコメディアンになることを夢みて、日夜、自宅でひとり漫談の練習をしている。ジェリーを演じるのが往年のお笑いスター、ジェリー・ルイス
 たまたまジェリーと知り合うきっかけがあり、せいいっぱい自分を売り込み、訪ねて来いという社交辞令を真に受けて、有頂天になる。が、徹夜で作った漫談のテープを送っても無視され、家まで行くと追い返され、とうとう逆恨みする始末。
 このジェリーには、異常な女ストーカーがいて、パプキンはこの女と共謀し、ついにジェリーを誘拐する。そしてジェリーが司会するトーク番組に自分をゲスト出演させるよう要求するのだ。ジェリー・ランフォードショーの新人コーナーに出演できて、それがTV放送されれば解放する。でなければ、あんたの命は保証しない。
「芸能界はクレージーな世界だが、ちゃんとルールはある。スターもみんな下積みから始めるんだ」というジェリーの常識論は、パプキンには通用しない。
 そして、司会者不在のまま、まんまとTV出演をはたしたパプキンは、結構受けてしまうのだ。舞台経験もなく、芸人としてはアマチュアであり、単なるマニアであるが、お笑いスターを誘拐してまで出演という異常さがかえって反響を呼んだのか。
 逮捕され服役中にパプキンが刑務所内で書いた『一夜だけのキング』という本はベストセラーとなる。今のインターネット社会を先取りしたようなコメディである。

キング・オブ・コメディ/The King of Comedy
1983 アメリカ/公開1984
監督:マーチン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロジェリー・ルイス、ダイアン・アボット、サンドラ・バーンハート、シェリー・ハック