シネコラム

第231回 ジョーカー

第231回 ジョーカー

令和元年十月(2019)
有楽町 丸の内ピカデリードルビーシアター

 ティム・バートン監督の『バットマン』はただのヒーローアクションではなく、人間の暗黒面がリアリズムで描かれていた。路上強盗に両親を殺された大富豪の息子が、陰々滅々と悪を憎み、やがてヒーローとなる。『バットマン』は元々暗い話なのだ。
 その『バットマン』の悪役ジョーカーがいかにして誕生したかの秘話が、また、陰鬱であり、リアルである。ホアキン・フェニックスの鬼気迫る演技がとにかくすごい。まるでジョーカーが乗り移ったかのようである。監督はトッド・フィリップス
 ゴミと失業者で溢れる町、ゴッサムシティ。安アパートで老母とふたり暮らす無名のコメディアン、アーサー。
 子供の頃、コメディアンになりたいと言ったら、みんなに笑われた。大人になってコメディアンになったら、だれも笑わない。そんな被虐ネタをノートに書き留めている。
 突然笑い出し、笑いの発作が止まらなくなる持病があり、内気で友人もなく、それでもいつか人気者になる夢を抱きながら、日々、道化師のアルバイトに甘んじている。
 社会では貧富の格差はますます大きくなり、政界に進出した大富豪ウェインの政策で、福祉は切り捨てられ、アーサーが通う精神科の無料セラピーは廃止され、薬も満足に支給されない。ある日、街頭宣伝の仕事の最中に不良どもに看板を奪われ、袋叩きにされる。自分の身は自分で守れといって同僚から手渡される拳銃。
 それがアーサーの運命を変えることになる。
 ウェイン家の家政婦をしていた母から聞かされる出生の秘密。
 人気コメディアン、フランクリンのTVショーから突然の出演依頼。
 社会の底辺で暮らし、世間から踏みつけにされていた惨めで売れないコメディアン、なにひとつうまく行かなかった男が、どん底まで落ちて、闇の世界で強烈なヒーローとして生まれ変わる瞬間を描いた物語である。
 正義側のバットマンはまだ出てこない。

ジョーカー/Joker
2019 アメリカ/公開2019
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックスロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ

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