頼迅一郎(平野周) 頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー

第8回「戦況図解 信長戦記』(サンエイ新書)

頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー8

戦況図解 信長戦記 (サンエイ新書)

戦況図解 信長戦記 (サンエイ新書)

 

  来年のNHK大河ドラマの主人公は、明智光秀だそうです。明智光秀といえば、年配の方は「三日天下」でお馴染みでしょう。本能寺に主君織田信長を屠りますが、毛利と和睦し、中国大返しという離れ業で駆けつけた羽柴秀吉豊臣秀吉)に、山崎の合戦で敗れ、安土に向かう途中、小栗栖村で土民に殺されるという、波瀾万丈の人生を生きた武将です。

 元来、日本人は、下が上を制す(下剋上)や、謀叛、主殺しは好まない民族だったはずです。しかしながら、主殺しで有名な明智光秀が、お茶の間に主人公として登場するというのは、大きな時代の変化なのかもしれません。
 それは、年功序列が崩壊し、終身雇用が薄れ、労働の流動化が進み、実績を上げれば年齢に関係なく抜擢を受ける、自分の実力が活かせないなら活かせる会社を探す等、現代社会の反映と考えることもできるでしょうか。

歴史は安寧と動乱を繰り返します。第二次大戦後の日本は、安寧の時代でした。次は動乱の時代ですが、それはもう始まっているのかもしれません。室町時代にいつしか下剋上の風潮が広まっていったように。

 日本人は織田信長豊臣秀吉徳川家康の戦国の三英雄、特に信長が大好きです。小説ばかりでなく、映画、マンガ、アニメ等で、今までも多くの作品が世に出ています。これを機に、さらに出てくるかも知れません。また、信長を絡めた作品も登場し、それなりの人気を得ています。
 そう考えると、来年の大河ドラマも、光秀が主人公といいながらも、信長との関わりで理解しようという流れなのかもしれません。

 さて、今回の作品は、織田信長の生涯に渡る合戦を取り上げて、文章とビジュアルで解説したものです。
 全体は五章構成で、序章が信長以前の尾張情勢、第一章が信長の尾張統一戦、第二章が美濃攻略から安土築城まで、第三章が石山合戦から本能寺の変まで、第四章が信長没後の戦国情勢が合戦を中心に紹介されます。
 ビジュアル面は、城と砦の配置、そして兵と武将の動きが図解で示されるため、いつ、どのように戦いが流れたのかが視覚的に分かって面白いです。
 なかには、「あれ、この武将だれ?」というような人物も登場して、自分の知識の浅さを認識し直したり、敗将の逃走路を見て、「こんなルートで逃げたんだ!」というような新しい発見があったりして、なかなか面白いと思います。

 私としては、第一章の信長の尾張統一戦をお勧めします。ここのところは、織田氏の研究と共に、近年大分明らかになってきました。改めて読むと、信長の勢力拡大の流れが確認できて面白いです。
 ところで、桶狭間の戦いは、織田軍3千(2千とも)が、今川軍4万5千(2万5千とも)に勝利した戦いでもあります。圧倒的な兵力差をひっくり返したわけです。
 しかしながら、尾張の石高(当時は貫高)、信長の統一状況を考えれば、3千の軍勢は余りにも少ないのではないでしょうか。丹下砦や鷲津砦の守備兵を考慮しても少ないような気がします。こうした疑問を持ちながら、あるいは通説を疑いながら、読むのもまた楽しいのではないでしょうか。

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