シネコラム

第187回 鳥

第187回 鳥

平成二十四年一月(2012)
府中 TOHOシネマズ府中

 サンフランシスコの町並みを急いで歩く美女。彼女はどこへ行くのかというと、鳥専門のペットショップである。ここで九官鳥を注文するのだが、店員が席をはずしている間に男の客が来て、彼女を店員と間違えてラブバードのつがいを注文し、彼女もいたずら半分に店員のふりをする。
 女は新聞社の社長令嬢。男は弁護士。この男女、これがきかっけとなって、最初は喧嘩腰、でも心の底ではお互い惹かれているというまるで古風なラブコメディのパターン。彼女は週末、ラブバードを携えて、海辺の町の彼を訪ね、彼は驚くが、うれしさを隠せず、自宅での夕食に招待する。
 美人の社長令嬢を見て、母親は敵意むき出し。彼が独身なのは、この母親のせいかな。というような恋愛喜劇風の展開に、だんだんと鳥たちの暗い影が。
 あまりに有名な恐怖映画。スズメやカモメやカラスの群れが人を襲う。令嬢役のティッピ・ヘドレン、まるでバービー人形のようで、映画の中でも海辺の町を彼女が歩くと、周囲の男たちはその美しさにみんな振り返る。
 彼女の役名はメラニーだが、このとき、ヘドレンは結婚して娘がいた。後の女優メラニー・グリフィス。役名が娘の名前と同じというのはただの偶然だろうか。
 弁護士の母親がジェシカ・タンディ。『ドライビング・ミス・デイジー』に主演したお婆ちゃん。
 それにしても、ヒッチコック監督は怖がらせるのがうまい。後半はもう、はらはらどきどきがずっと続く。実際には、鳥が人間を襲うようなこと、ほとんどないそうだが、何かのきっかけでそうならないとも限らない。
 一九七〇年代の初期、私が高校生の頃、早川書房SFマガジン手塚治虫の『鳥人大系』が連載されていて、毎月楽しみに、書店でそこだけ立ち読みしたことを思い出す。

 

鳥/The Birds
1963 アメリカ/公開1963
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ロッド・テイラー、ティッピ・ヘドレン、ジェシカ・タンディスザンヌ・プレシェット、ヴェロニカ・カートライト