シネコラム

第186回 アラクノフォビア

第186回 アラクノフォビア

平成三年六月(1991)
池袋 文芸坐

 ファーストシーン、昆虫学者が南米の奥地で虫を採集しており、未知の蜘蛛を発見する。同行のカメラマンが蜘蛛に襲われるが、死因が判明しないまま、死体は棺に納められ彼の故郷であるアメリカの田舎町へと送られる。
 その直後から、町で住民の急死事件が相次ぐ。
 都会から移住した新任の医者が不審を抱き、犠牲者のひとりが蜘蛛に噛まれたことから、遺体を解剖に回すと、毒性の反応が認められる。
 医者は蜘蛛の権威である昆虫学者に調査を依頼する。これが冒頭の学者で、南米で採取した毒蜘蛛の同類が原因と判断。生命力が強く猛毒を持った蜘蛛がカメラマンの棺に紛れて、この田舎町で繁殖していたのだ。
 ただちに害虫駆除の専門家が呼ばれ、医者、昆虫学者とともに親蜘蛛を追い詰め、ついに燃え上がる地下室の炎の中で親蜘蛛は仕留められる。
 この映画を観たとき、同じようなストーリーがあったことを思い出した。
 そうだ。吸血鬼ドラキュラだ。
 南米のジャングルはトランシルヴァニアであり、毒蜘蛛は吸血鬼である。だからこの映画の蜘蛛は死体の血をひからびるまで吸いつくす。ドラキュラが棺に眠ったまま船に紛れてロンドンにやってきたように、毒蜘蛛はカメラマンの棺に紛れ込んでアメリカの田舎町へと現れる。
 次々と襲われる住人。毒蜘蛛を追い詰める昆虫学者と駆除業者は吸血鬼を追い詰めるヴァン・ヘルシング教授なのだ。
『アラクノフォビア』は『吸血鬼ドラキュラ』とほぼ同じストーリーだった。
 いまや吸血鬼にはらはらする人は少なかろうが、この新手の蜘蛛映画は手に汗握るに充分なほど見せてくれる。下手なオカルト映画よりもよほど怖い。世の中に蜘蛛や蛇の嫌いな人は多いが、アラクノフォビアとは蜘蛛恐怖症のこと。

 

ラクノフォビア/Arachnophobia
1990 アメリカ/公開1991
監督:フランク・マーシャル
出演:ジェフ・ダニエルズ、ハーレイ・ジェーン・コザック、ジョン・グッドマンジュリアン・サンズ、ヘンリー・ジョーンズ