第180回 ライオン・キング
令和元年八月(2019)
新所沢 レッツシネパーク
一九九四年のディズニーアニメーション『ライオン・キング』が公開されたとき、手塚治虫の『ジャングル大帝』との類似が話題になった。たしかに似ている。
それはさておき、昨今のCGの進歩は著しい。
ディズニーはかつての自社アニメーションの名作を有名俳優を使って次々と実写リメイクしており、『ライオン・キング』もかと思った。が、人間の俳優は登場しない。すべてが動物である。生の動物をいくら調教しても、あれだけのドラマは演技できないし、大量の野生動物、ライオン、ハイエナ、象、キリン、ヌーの暴走、空飛ぶ鳥を集めるのも不可能である。つまり『ライオン・キング』の実写リメイクは、実写と見紛うCGで動物たちを描いて、本物のように見せているのだ。
ドラマそのものは前回のアニメと同じである。ライオン王の息子が叔父の悪だくみで父を殺され、放浪し、やがて国に戻って叔父と対決する。『ハムレット』の動物版である。
すごいのは、すべてアフリカにいる野生のライオンやその他の動物たちの自然な動きを再現していること。本物以上に本物なのだ。まるでドキュメンタリーの『野生の王国』や『ネイチャー』を見るようなリアルさ。これには心底参った。
かつて『ジュラシックパーク』の恐竜の群れに驚いたものだが、CG技術がこれだけ進歩すれば、SFやファンタジーだけでなく、ごく普通の日常ドラマの場面さえ、本物そっくりに作れるだろう。風景のロケもいらず、室内のセットもいらず、衣裳や小道具もいらず、やがては高いギャラの俳優もいらないということになりかねない。
ジョン・ファブロー監督は『アイアンマン』では監督しながらハッピーの役で出演。その流れで『アベンジャーズ』や『スパイダーマン』などにも同じハッピー役で出ている。そういえば、『アベンジャーズ エンドゲーム』はマーベルキャラクターを演じるスター俳優が総出演、人間以外の場面はほとんどCGだった。ひょっとして人間の俳優も何人かはCGかも、と思わせるような時代になってしまった。
ライオン・キング/The Lion King
2019 アメリカ/公開2019
監督:ジョン・ファブロー
CG(声)ドナルド・グローヴァー、セス・ローゲン、キウェテル・イジョフォー、ビリー・アイクナー、ビヨンセ・ノウルズ=カーター、ジェームズ・アール・ジョーンズ