シネコラム

第172回 運び屋

第172回 運び屋

平成三十一年二月(2019)
西新橋 ワーナーブラザース試写室

 私が映画館で初めてクリント・イーストウッドを観たのは、中学生のとき、作品はイタリアの西部劇『続・夕陽のガンマン』だった。次が大学に入る前、浪人時代に観た『ダーティハリー』で、イーストウッドはガンマンであれ刑事であれ、強くてかっこいい男の中の男であった。しかもなかなかの二枚目でもある。
 一九七〇年代から監督としても腕を磨き、やがて巨匠となった。
 そのイーストウッドが八十八歳で主演した。しかも自分で監督も。
 主人公は九十前の老人である。園芸家として各地を飛び回り、家庭を顧みなかったために妻とは離婚している。結婚式をすっぽかされた娘は以来、父とは口を利かない。孫娘の婚約パーティに顔を出すと、妻や娘が怒り狂い、老人はすごすごと出て行くしかない。
 園芸業が立ちいかなくなり、家も農園も差し押さえられ、行き場のない彼に声をかけたのが、メキシコ系の麻薬組織。今まで無事故無違反でなんの前科もない孤独な老人。これは麻薬の運び屋にちょうどいい。
 一度だけのつもりが、思わぬ大金が手に入り、老人は大喜びで孫娘のためにパーティ資金を出してやる。そして、味をしめ、運び屋を続け、次から次へと大仕事。こんな無害な年寄りがまさか組織の手先だなんてだれも疑わない。
 老人は頑固だが、妙に愛嬌もあり、組織の監視役ともけっこう仲良くなって、運び屋を楽しんでいる。
 そこへやり手の麻薬捜査官が現れて、だんだんと追い詰める。これがブラッドリー・クーパー
 さて、老人の運命やいかに。
 イーストウッドは老人になっても、やっぱりかっこいいのだ。

 

運び屋/The Mule
2018 アメリカ/公開2019
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッドブラッドリー・クーパーダイアン・ウィーストローレンス・フィッシュバーンアンディ・ガルシアマイケル・ペーニャ、イグナシオ・セリッチオ