第171回 翔んで埼玉
平成三十一年一月(2019)
銀座 東映試写室
昔から落語や喜劇などで田舎を笑いものにする芸はよくあるが、演者が下手だと後味は悪い。
が、ここまで極端だと、それはもう地方に対する差別などという些末な感情を超越して、笑ってしまうしかない。埼玉県民の劣等感を思い切り茶化しながらも、当の埼玉県で大入り、大受けの大好評というのも頷ける。
出だしは埼玉県に住む親子。娘が結婚してめでたく東京都民になるというので、結納のため都内のホテルへ車で向かうのだが、父親がなにげなくラジオのスイッチを入れると、そこに流れるのが都市伝説のラジオドラマ。とんでもない物語が展開する。
アメリカ帰りの美少年が転校してくる名門高校がほとんど宝塚歌劇の舞台のごとく派手。クラスも生徒の居住地で分けられ、港区は上位、郊外の田無などは東京都内でありながら、下層クラス。さらに埼玉県から越境入学している生徒は校庭の隅の掘っ立て小屋でボロボロの制服、ボロボロの教科書で勉強しているのだ。埼玉出身の生徒が腹痛をおこしても医務室には行けず、その辺の草でも食わしておけと言われる。
そもそも埼玉県民は東京に入るのに通行手形が必要、特殊警察が手形のない埼玉県民を摘発して検挙する。多くの埼玉県民は東京に強い憧れを抱きながら、東京の地を踏むことなく一生を終える。
ともに東京から見下されている埼玉と千葉の確執。東京にすりよる神奈川。さらに未開のジャングルに怪獣が生息する群馬。埼玉にのみ発生する伝染病のサイタマラリア。貶められた埼玉の地位向上をはかる埼玉解放戦線。すべては極端なギャグだが、それを著名なベテラン俳優が真剣に演じるのだ。
大笑いしたあと、ラストに流れるはなわの「埼玉県の歌」にふと思う。礼儀と常識によって口にしないだけで、この映画、デフォルメされてはいても、東京や関東各地の人々が心の底で思っている本音がかなり入っている。
翔んで埼玉
2019
監督:武内英樹
出演:二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、ブラザートム、麻生久美子