シネコラム

第164回 真夏の夜の夢

第164回 真夏の夜の夢

平成十二年四月(2000)
有楽町 スバル座

 

 妖精の世界でオーベロン王が女王と仲違い、オーベロンは妖精パックに惚れ薬で女王をひどい目に合わせるよう命じる。
 パックは森で芝居の稽古をしている職人たちを脅かし、機織りのボトムをロバ頭の化け物に変え、惚れ薬の力で女王がこのロバ男を好きになるように仕向ける。
 ついでに森に逃げ込んできた駆け落ちのカップルと、それを追いかけてきた別の男女に親切から惚れ薬を与えるが、パックが相手を間違えたため、四人の男女はそれぞれの心変わりに大混乱。
 原作はエリザベス王朝時代だが、これを二十世紀初頭のイタリアの風俗に置き換え、昔のイタリア喜劇のような味わいを出している。
 妖精王オーベロンがルパート・エヴェレット、女王タイターニアがミシェル・ファイファー、妖精パックにスタンリー・トゥッチ、大公がデヴィッド・ストラザーン、その婚約者ヒポリタがソフィ・マルソー、職人のひとりで女形を演じるのがサム・ロックウェル。そしてロバ頭に変身する職人ボトムがケビン・クライン。なんとも豪華キャスト。
 原作の道化役ボトムは脇役だが、この映画では主演のような扱いになっており、人生にくたびれながらも、夢を見続ける中年男という設定。
 パックのいたずら、惚れ薬の魔力で妖精の女王と愛し合ったことは彼には一夜の夢。その夢から覚めても、現実になかなか戻れず、窓の外の風景をぼんやり眺めていると、どこからともなく螢が飛んでくる。
 妖精の女王もまた、惚れ薬の力が消えたあとも、密かにボトムを忘れずにいて、窓辺の螢は女王の化身だった。ボトムはそれとは気がつかないまま、もの思いにふけっている。喜劇なのになにやら悲恋のメロドラマのような切ないラストシーンである。

 

真夏の夜の夢/A Midsummer Night’s Dream
1999 アメリカ/公開2000
監督:マイケル・ホフマン
出演:ケヴィン・クラインミシェル・ファイファールパート・エヴェレットスタンリー・トゥッチデヴィッド・ストラザーンソフィー・マルソーキャリスタ・フロックハートクリスチャン・ベールサム・ロックウェル

 

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