シネコラム

第165回 炎の城

第165回 炎の城

平成十四年十二月(2002)
中野 中野武蔵野ホール

 

 大久保にある東京グローブ座市川染五郎主演の『葉武列土倭錦絵(はむれっとやまとのにしきえ)』を観たのは平成の初め頃だ。戯作者の仮名垣魯文によって翻案された歌舞伎版の『ハムレット』である。シェイクスピアは歌舞伎になったり、ミュージカルになったり、ドラマになったり。魅力的な題材なのだ。
 黒澤明が『マクベス』を戦国時代に置き換えた『蜘蛛巣城』は有名だが、実は『ハムレット』もまた、時代劇として映画化されている。加藤泰監督の『炎の城』で、シェイクスピアを知らなければ、立派に東映時代劇として通る出来栄えなのだ。
 時代は室町末期、明国へ遊学中の若君が帰国すると、城主であった父が死んで、叔父が跡目を継いでいた。母は父の亡き後、叔父の奥方となっていた。
 大川橋蔵が若君でハムレット大河内傳次郎が新城主でクローディアス、高峰三枝子が奥方でガートルード、他に薄田研二が家老のポローニアス、三田佳子が家老の娘オフィーリア、黒川弥太郎が若君の友で忠臣でもあるホレイショー。シェイクスピア同様に筋が運ぶ。
 大河内の新城主は戦国の野望に燃えた斎藤道三タイプの悪人でわかりやすい。家老が屏風の影で若君に殺され、家老の娘は入水自殺する。叔父の悪事を暴くために旅の猿楽一座に芝居を打たせるのもハムレットと同じ。
 家老を殺害して追われる若君を逃がすために友は家臣たちに殺され、いったん逃れた若君は、叔父を討つため城に戻り、そこで家老の息子と対決するが、家老の息子は毒の剣がすりかわって死ぬ。母は我が子を狙う火縄銃に撃たれる。
 最後は暴政に憤る農民一揆の群衆が城に押し寄せ、若君は燃えあがる城の中で父の仇を討つのだった。

 

炎の城
1960
監督:加藤泰
出演:大川橋蔵大河内傳次郎高峰三枝子、明石潮、薄田研二、伊沢一郎、三田佳子