シネコラム

第153回 プロデューサーズ

第153回 プロデューサーズ

平成十三年一月(2001)
渋谷 シネマソサエティ

 

 世紀の駄作『死霊の盆踊り』はあまりのくだらなさゆえ、それが話題になって、多くの映画ファンの知るところとなった。最低作は最高作と同じように印象に残る。
 作品が最低すぎてヒットしてしまうという興行の皮肉を題材にしたのがメル・ブルックス監督の『プロデューサーズ』である。
 ブロードウェイの三流興行師マックスの帳簿を調べながら会計士のレオがふと呟く。
 芝居は当たらないほうが儲かるんだなあ。
 どういうことか。ヒットしなければ一晩で幕を下ろす舞台もある。その場合、出資者に配当金を支払わなくてもすむわけで、出資金は興行師の懐に残る。
 そこでマックスはとんでもない計画を思いつくのだ。一晩で必ず失敗する最低最悪の舞台をプロデュースし、過剰な出資金をかき集めよう。気の弱いレオを仲間に引き入れ、これほどひどいものはありえない最悪の舞台作りに専念する。
 ナチ崇拝者が書いた『ヒトラーの春』という稚拙な戯曲を探し出し、さっそく契約。なんでもかんでもミュージカルに仕立ててしまうゲイの変人を演出家に招き、オーディションで一番下手な麻薬中毒の俳優を主演に選ぶ。
 いよいよ初日の開幕。観客席では怒って席を立つ人がいて、ふたりは満足してバーへ。ところが、下劣な戯曲、無茶苦茶な演出、最低の主演俳優、最悪の条件が重なりすぎて、この舞台、途中から大爆笑の大受け。とうとうヒット作になってしまうのだ。
 熟練したコメディアンの至芸よりも、芸無しの素人がアホな地をさらけ出すほうが受けるのは、わが国のTVバラエティでもよくある話。
 このメル・ブルックスの映画はその後、ブロードウェイでミュージカルの舞台になり、やがてそのミュージカル版も映画化され、ブルックス御大も最後にちらりと姿を見せた。
 オリジナル版が公開された道玄坂裏のシネマソサエティはその後、シネマアンジェリカになり、やがて閉館した。私がミュージカル版を観た渋東シネタワーは内部が改装されTOHOシネマズ渋谷となった。

 

プロデューサーズ/The Producers
1968 アメリカ/公開2001
監督:メル・ブルックス
出演:ゼロ・モステル、ジーン・ワイルダー、ケネス・マース、リー・メレディス